筆者が住んでいた西谷が、従来通りの横浜方面と新設される新宿方面の分岐駅となることも感慨深い。20年前の西谷は各停しか停まらない小さな駅で、駅ビルやロータリーはもちろん、周辺に目立った建築物やスポットは皆無だった。

 西谷のホームは東海道新幹線の高架橋と交差しており、ホーム上に新幹線の橋脚がある。東海道新幹線に乗車して小田原方面から新横浜に向かう途中、進行方向の右手にふと視界が開けて、西谷住民の生活の拠点であるスーパー「マルエツ」がチラリと見える。そのわずかな瞬間を見逃すまいと集中するのが、西谷住民としてのささやかな楽しみだった。
 
 そんな西谷が特急や快速が停車する都心へのゲートウェイとして脚光を浴び、ハイカラな新型車両が行き来するなんて、四国アイランドリーグplusの野球選手が海を渡ってメジャーリーガーになるようなもの。20年前の自分に「西谷から相鉄の超カッコいい電車に乗って直接、新宿に行けるようになるんだよ」と伝えても、その言葉の意味すらわからなかったはずだ。

 ただし20年前は相鉄だけがローカルではなかった。西谷から新宿に向かうには横浜でJR東海道線か横須賀線に乗り換えた後、品川でさらに山手線に乗り換えるか、横浜で東急東横線に乗り換え、渋谷から山手線に乗る必要があった。横浜から京浜急行で品川に向かう手もあったが、相鉄のホームから遠いうえ雰囲気がガラリと変わるのであまり乗らなかった。

 2000年代にはいるとJR湘南新宿ラインが開通して、横浜から直接新宿に行けるようになったのは画期的だった。東急東横線もみなとみらい線や東京メトロ副都心線などと次々に相互直通運転を開始し、他の鉄道会社もひたすら拡張を続けた。

 鉄道の路線とともに街も人も変わってゆく。例えば20年前の品川駅港南口は閑散としていたが、いまは煌びやかなオフィス街となった。同様に東急東横線とJR南武線のみが停車する駅だった武蔵小杉にはセレブなタワマンが立ち並び、周辺は家族連れで賑わう。

 各線が毛細血管のようにつながっていく中、残された数少ないピースだった相鉄がとうとう都心に乗り入れる。平成から令和になった時よりも、「時代は変わったな」と胸を熱くする古今の沿線住民は少なくないはずだ。

 2022年に相鉄はJR直通線新駅の羽沢横浜国大から分岐して、東急線とも直通運転が開始される予定だ。東急目黒線を経由して都営三田線や東京メトロ南北線への直通運転も計画されており、“あの相鉄”はさらなる飛躍の時を迎える。

●取材・文/池田道大(フリーライター)

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