そして謁見を無事終え、ミラノを訪れた時のこと。市内の教会をマルティノと訪れ、食堂の壁に描かれた『最後の晩餐』の神々しさに息を呑んだ宗達は、先輩を殴って工房を追われたという少年画工“カラヴァッジョ村のミケランジェロ”に声をかけられるのだ……。
「実は一行がミラノにいた夏の9日間、14歳のカラヴァッジョも同じ街にいたんですよ! この9日間の奇跡に私は運命すら感じ、3人を遭遇させたのです。アートって不思議で、彩が〈タイムカプセル〉に喩えるように描かれた時代の空気や命の輝きを保ったまま、時空を軽々と超えてしまいます。
しかもこの、文字より古いメディアの素晴らしさは、時代も人種も国も関係なくその美を共有できること。以前、知人の息子さんが『風神雷神図』を見て“超カッコいい”って言ったんです。3歳児がですよ。そんな傑作を残した宗達に、人間的魅力がないわけがないですよね」
構想が大胆な分、彼らが海のこちらとあちらで同じ時を生きた同時代性が一層際立つ。美を愛する心一つで通じ合えた彼らの友情や好奇心に、おそらく嘘はない。
【プロフィール】はらだ・まは/1962年東京生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒。森美術館設立準備室、MOMA等を経てキュレーターとして独立。2005年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞、2012年『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞、2017年『リーチ先生』で新田次郎文学賞。現在パリにも拠点を持つ。「当時大変な労苦を乗り越えて交流した彼らを私は誇りに思いますし、日本文化が憧れをもって迎えられていることの原点を感じます」。
構成■橋本紀子 撮影■国府田利光
※週刊ポスト2019年12月13日号