一九七九年に映画『限りなく透明に近いブルー』でデビュー、同年に倉本聰が脚本を書いたテレビドラマ『たとえば、愛』(TBS)にも出演した。
「『たとえば、愛』は楽しかったですね。大原麗子さん、原田芳雄さん、桃井かおりさん、それから小鹿番さん。錚々たるプロの集団との仕事でしたから。
何より楽しかったのが、倉本さんからの駄目出しです。スタジオでのリハーサルの時から倉本さんがいらしていて。たとえばあるセリフでは、台本に『………』と『…』が三個書いてあって、次のセリフでは『……………』と五個書いてある。すると倉本さんは『ちゃんとその間を分かって芝居してください』と。そうやってセリフの間やト書きの行間を指導してもらいました。
『コーヒーカップを手に持つ。コーヒーを口まで持っていって、その次に一言セリフを言ってまた飲んでから一言セリフを言って』とか、物凄く細かいんです。それが少しでも崩れると『コーヒーを取るまでのスピードが遅いんだ。そのスピードに気持ちが出る。こっちはちゃんと計算して書いてるんだから、その気持ちでこのカップを持ってこのセリフを言うと、ちょうど尺が合うようになっている。だから、もうちょっと考えてやってくれないか』と言うんですよ。『うわあ、面白いなあ』って。
それでも劇団からはお金を貰えなくて、映画に主演した後も食えないから撮影の空いた日に鳶のバイトをしていました」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/黒石あみ
※週刊ポスト2019年12月20・27日号