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【平山周吉氏書評】「性の境界線」を生きる人間を描く私小説

『デッドライン』千葉雅也・著

 年末年始はゆっくり腰を据えて本を読む絶好の機会。2020年は果たしてどんな年になるのか? 雑文家の平山周吉氏が選んだ2020年を読み解く1冊は、千葉雅也氏の『デッドライン』だ。

●『デッドライン』/千葉雅也・著/新潮社/1450円+税

「性の境界線」を生きる人間が、このまっとうな小説『デッドライン』には確実に描かれている。LGBTの政治的正義にも、イロモノ的消費にも還元されない切実な思考が、ぴちぴちと、しなやかな文章に詰まっているからだ。

『勉強の哲学』でブレイクした気鋭の哲学者(立命館大学准教授)千葉雅也の処女小説は、すぐに野間文芸新人賞を受賞したが、二〇二〇年には、さらに広く読まれるのではないだろうか。

 小説の舞台は二十一世紀初頭の東京である。それが遠い時代なのか、近い過去なのかは読み手の年齢によって違うかもしれない。主人公の主な棲息地は、駒場の東大大学院、夜の新宿二丁目、高校までを過ごした地方都市である。両親が、友人が、先生がいて、それから「若い男」たちが蠢いている。

 ドトールでジャーマンドックを食べながら読みふける本はフランス現代思想であり、「僕」にヒントをくれる先生が話すのは中国古代思想『荘子』のエピソードである。友人の自主製作映画には音楽で協力する。家賃十二万円の部屋は十五畳のワンルームだ。

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