「1度やったら2週間はひっかかる。2週間、びくびくして暮らすのなんてまっぴらだ」
違法薬物で捕まれば尿検査が待っている。使用した違法薬物にもよるが、尿鑑定で薬物反応が陽性と出るのは使用から約2週間。1度の使用で、その後の2週間を棒に振るのはごめんだという。
「沢尻エリカが『私のところには警察は来ないだろうと思っていた』って言ってたけど、それわかる!って思ったね。俺も自分のところにだけはこないと思っていたし、やっているやつはみんなそう思っている」
だから逮捕されるまでやり続けることになる。
「クスリをやるやつにとっては逮捕されるか逮捕されないか、それだけだ」
逮捕され、実刑を受ければ刑務所に収監される。
「ムショの雑居房では、8人いるとそのうち6人はヤク中だ。そこで薬物の怖さをみんなで話す…なんてことはない。あれはよかった、これは効いた、濃い、薄い、安い、高いとそんな話しか、誰に売ってた、何年売ってたという自慢話だ。本当か嘘かわからないがね」
クスリの話をしていると、やりたい欲求が強くなるのではと思うが、実際は違うらしい。
「ムショだと自由もなく、入手は不可能。仮にやりたいと思っても、絶対にできないことがわかっているから、あまり考えないようになる」
暴力団幹部は田代まさしを例に話す。
「ムショにいる間、やめられるんだから依存なんかじゃない。彼は何度も務めているが、1度でも禁断症状で病院に運ばれたり、幻覚で精神がおかしくなったことがあるか聞いてみたいもんだ。拘禁生活中は朝起きて、作業して、飯食って寝るだけ。何らかの治療があるわけでもない。ただ、自由がないだけでね」
「覚せい剤は身体が要求するものではなく気持ちの問題。社会に出て自由を手にした途端、気持ちが弱くなるんだろう。ムショでは普通に生活してたくせに、出てきた途端、毎日が薬物をやめるため自分との闘いだ、などとよく言えたもんだ」
気持ちの問題、まさにそこが依存の原因ではないかと思うが、薬物が入手しやすい環境にいる暴力団幹部はこう断言する。
「やめようとすればやめられる。俺の周りはみんなやめたよ」
薬物依存症といえば治療が必要な病気というのが一般的な認識で、依存者がいるのも確かだ。だが暴力団幹部の話を聞いていると、違法薬物使用を繰り返す者、長期間使用し続ける者にとって、薬物依存というラベリングはクスリに手を出す時の都合のいい言い訳、免罪符でしかないのかもしれない。