騎手が馬にまたがる瞬間も見逃せない。周回のときに厩務員には従順だった馬が、騎手を背に乗せたときにも変わらないかどうか。「ああ、これからこの人にムチをふるわれるんだな」と気を立てる馬もいるだろう。そのときの動揺や興奮が小さい馬がいい。
ちなみに、馬には鞍上が分かるという。重心や触れ合う部分の力の入れ加減で「あ、この前またがった○○さんだ」と。テン乗りの場合も「おや?初めての尻(?)だな」と分かる。
気慣れた鞍上にもかかわらず何かしらの難色を示したりすれば「この人のムチは特に痛いんだよな」と思っているのかもしれない。テン乗りなのに泰然としている場合は、「きちんと言うことを聞きます」といった感じがする。
騎手全員がパドックに集うのは1Rと5R。所作の差異が大きそうな若駒戦に妙味を期待し、私は午前9時半には競馬場に行く。
騎手を乗せた馬が次々にパドックを後にする。でも馬券を買うにはまだ早い。返し馬だ。そしてその前にも、ぜひ見ておきたいポイントがあるのだった。
●すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年1月3・10日号