もう一つ、このドラマで指摘したいのは役者陣の素晴らしさでした。
警察官になる夢を叶えるべく入校してきた生徒たち──宮坂定に工藤阿須加、落ちこぼれの平田和道に林遣都、元インテリアコーディネーター楠本しのぶに大島優子、自信過剰な菱沼羽津希を川口春奈、仲間と馴染まない都築耀太を味方良介。
一人一人が役者として人物を造形する力を発揮し、目の前にいる「木村拓哉」の重さに動じず、同じ比重で立ち向かっていこうとする姿勢が印象的でした。
例えば工藤さん演じる宮坂が、風間教官を前に一対一で「補習」されるシーン。教官の指示に素早く反応し、警察官としての所作を一つ一つこなしていく。敬礼をする。手錠を出す。的確にぴたりと動作をし、また元に収める。二人は演技でしっかりと対峙し、拮抗しているように見えました。
これまで多くの場合、ヒーローとしての役を固定され、結果としてヨイショされてきた木村さん。本人が望むか望まないかに関わらず、一人だけ高い位置に立つ構造も多かった。
しかし、このドラマは役者たちの頑張りもあって、水平的な位置取りで鬼教官と生徒が向かい合った。他の役者と水平的な関係になった時、「木村拓哉」はまた違う味わいを見せることができる。それがはっきり伝わってきたのです。その意味で、このドラマは「ヒーローとしてのキムタク」を葬ることができた作品かもしれません。
唯一、残念だった点があります。それは、短い時間の中にいろいろと多彩な生徒たちのエピソードを凝縮して詰め込みすぎた点。これならスペシャルではなくて、むしろ連続ドラマで見たかった。
学校という場所の特徴は多くの生徒がいること。だから、一人一人育った環境、抱えている問題も違い各人の個性から家庭、過去までをバリエーション豊かに描き出すことが可能です。今回の役者たちが優れていた分、一人一人の人間性をもっと味わいたかった……と感じさせるくらい、『教場』は興味深い仕上がりだった、ということでしょう。
気になるのは最後にさらっと映ったシーン。風間が次に担当する教室の中に、なぜか佐久間結衣、上白石萌歌、伊藤健太郎、三浦貴大らが座っていた。ということはすでに続編が仕込まれている兆しなのか。制作陣の手の内に、まんまとはめられてしまうのもまた、ドラマ好きの至福かもしれません。