ライフ

認知症の母をコンサートへ 誘うのは当日、事前だと連夜の電話

認知症への向き合い方とは

 父親が亡くなり認知症の母親(85才)を支えているN記者(55才・女性)。意思疎通が不確かになることの大変さと、認知症という正解のない難問への向き合い方についてレポートする。

 * * *
 今から10年ほど前、母に認知症らしき兆候が表れた時は、驚きよりも「あぁ、ついに来たか」という感じだった。というのも母方の祖母や伯母たちが、70代後半になると順を追って認知症になったからだ。直前のことを忘れ、同じ話を繰り返す症状も、なんとなく見て知っていた。

 ちょうど世間でも認知症への関心が高まり、取材という形で勉強する機会も増えた。何も知らず、いきなり老親の不可解な行動に腰を抜かす人に比べれば、私はかなり恵まれていたのだ。

 ところがやはりそう簡単ではなかった。父の急死直後、物盗られ妄想にとらわれた母は、恐ろしい鬼の形相になり、口汚い言葉で私をなじった。これは認知症の典型症状で、信頼する人を攻撃しやすいこともよく承知していたのだが、あっけなく心は折れた。

 認知症対応のマニュアル本には「逆らうな」とあったが、まったく無理だった。母が何か言うたび、「落ち着け、落ち着け」と唱える自分を、「ママしっかりしてよ!」と怒る自分が押し倒して、母に立ち向かってしまうのだ。

 それでも当時は、怒り狂う自分の方が正解だと思っていた。自分に嘘がないからだ。「病気でおかしくなっているのに、私が嘘をついたら母を見捨てることになる」と。

 連載2回目(2017年7月)に和光病院院長の今井幸充さんへ取材をした時、そんな心情を話すと、「認知症の人を慮る対応は“嘘”ではないよ。ましてや見捨てることではない。どんな形でも親子の絆は変わらないよ」と言ってくださった。ありがたくもうれしかったが、実はその時点でもまだ、少しモヤモヤしていた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン