「『ヴァイスホルン』で出しているソテーの大根も、一度湯がいてからバターと塩、砂糖で煮ることで、素材の味が引き立つようにしています。玉ねぎも軽く炒めておけば、新玉ねぎみたいに甘くなります。常に“その素材が持っている本来のおいしさ”を目指して作っていると、おのずと塩分を減らすことにつながるのです」
こうした発想が結果的に健康にいい料理であることが、「健康寿命をのばそう!アワード」受賞で評価された。
一番人気のメニューは、毎週金曜日にだけ提供される「丸子中央病院のスペシャルカレー」。山田さんの著書『日本一おいしい病院レストランの野菜たっぷり長生きレシピ』に掲載されているレシピには、山田さんならではの、おいしさを引き出す工夫が書かれている。
「玉ねぎをしっかり炒めて、肉にはあらかじめスパイスをまぶしておく。その後、玉ねぎと肉を一緒にオーブンに入れて、蒸し焼きにするのがコツなんです。野菜の蒸気で湿度がちょうどよくコントロールされて肉に火が入り、旨みがギュッと凝縮される。プロの料理人が使う“スチームコンベクションオーブン”と同じ状態にできるように工夫しました」
ここでも、理系の血が騒ぐのだろう。山田さんは、いつも試行錯誤しながらベストの調理法、ベストの分量にたどりつく。それが先の「小さじ16分の1」という、緻密にして正確な配合にこだわるゆえんなのだ。
「東大を辞めたなんてもったいないと、今でも言われます。でも、“勉強したい”と思うなら、本はどこにいても買えるし、どこにいたって学べる。自分が勉強したいと思えば、どういう環境でもできます。大学に入り直すことだって不可能じゃない。でも、“その時にしかできないこと”は間違いなくある。20才の頃の私にとっては、石鍋シェフの下で働くことがそうでした。“自分の人生においては、仕事をすること、料理を実地で学ぶこと、これが先だ”―この時、そう考えました。勉強が嫌いになったわけでも、したくなくなったわけでもありません。実際、最近はアインシュタインや量子力学に興味があり、入門書を眺めています」
『ヴァイスホルン』はルーフバルコニーに面し、60種類以上ものバラに囲まれている。
「ゲラールさんの“軽いフレンチ”のレストランも『メゾン・ローズ』という名前なんです。ゲラールさんのオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)でも学んだことがありますが、このレストランはそこに少しだけ似ているかもしれません」