その一つが、昨年4月に公開された佐藤信介監督の映画『キングダム』であり、もう一つが、渡辺謙が主演するミュージカル『The King and I 王様と私』だった。奇遇にもどちらも「キング」と冠されたこれらの作品こそ、大沢が“一番挑戦している作品”と認め、休業から復帰するきっかけとなったものである。オファーを引き受けた段階で彼には相当な覚悟があったはずだ。
実際に、大沢は『キングダム』へと向けて肉体改造に取り組み、体重を75キロから90キロへと増量。前述の『おしゃれイズム』でのトークによれば、朝食は馬刺しで昼からステーキ、毎日5食もの料理をたいらげていたという。
原泰久の人気漫画が原作の『キングダム』で大沢が演じたのは、中国春秋戦国時代の将軍・王騎。同漫画のなかで「秦の怪鳥」という異名を持つ王騎は、秦国六大将軍のなかでも最強と謳われる武人であり、身長2メートル以上もある巨大な体躯が特徴となっている。この人間離れしたキャラクターを演じるために過酷なトレーニングに挑んでいたというエピソードからは、大沢がまさしく命懸けで役作りに励んでいたことがうかがえる。
そうした俳優業に対する姿勢について、20年前からインタビューや舞台挨拶の司会などで大沢に話を聞いてきたシネマパーソナリティーの松岡ひとみ氏は次のように語る。
「大沢さんは自分の意見をハッキリと言う方なんです。インタビューのときも遠慮することなく真剣に応えてくれます。そんな大沢さんに先日インタビューさせていただいたんですが、『大沢さんはベテランだから……』って私が言いかけたら、大沢さんが『自分は全然ベテランじゃない』って仰っていて。俳優デビュー25周年も迎えましたし、世間的には立派なベテラン俳優と言っていい立場の方だと思うんですけど、本人は『違う』と。それは謙遜ではなくて、本気でつねに初々しい気持ちでいたいということだと思うんですよね。休業を経て、あらためてスタート地点に立ったんだと思います」