どうしても移動時間が長くなる子供を連れての里帰り(AFP=時事)

どうしても移動時間が長くなる子供を連れての里帰り(AFP=時事)

 しかし、正月や夏休みといった時期に故郷に帰省する場合は、鉄道での移動時間が2時間を超えることも珍しくない。ここまで長時間移動になると、子連れで鉄道に乗ることを尻込みしてしまう利用者も多いに違いない。

 そうした親の悩みを解決するべく、JR東海は2010年から東海道新幹線にファミリー車両を組み込んで運行している。ファミリー車両が導入された経緯について、JR東海東京広報室の担当者はこう説明する。

「車掌を経験した若手社員が、年末年始やお盆などの繁忙期に周囲を気にして乗車している子連れの家族を見た経験からファミリー車両は企画されました。2010年の導入時は夏と冬の繁忙期のみでしたが、2017年からはゴールデンウィーク期間中にも運行するようになっています」

 東海道新幹線は一編成16両で運行されるが、そのうち一両がファミリー車両に充てられている。ファミリー車両はJR東海ツアーズが販売する企画商品で、まるまる一両を貸し切る形になっている。ファミリー車両の利用者はすべて子連れの親子のため、子供が騒いだり走り回ったり、食べ物をこぼしたりしても気兼ねしなくて済む。JR東海ツアーズの企画商品のため、ファミリー車両はJR東海管内の東京駅―新大阪駅間しか利用はできない。それでも、子連れ移動に四苦八苦している親にとってはありがたい話だろう。

 精神的なストレスの少ないファミリー車両は評判になり、2019年末から2020年初にかけては1日に最大で片道4本、計111本が運行された。ファミリー車両を利用して、年末年始に子連れで帰省をした人もたくさんいたようだ。

「ファミリー車両の設定車両は、過去の利用状況や利用者の要望を参考にして、運行時間の設定をしています。『もっと設定の時間帯を広げてほしい』というリクエストをいただいていますが、希望の時間帯が多岐にわたっているので、利用状況や利用者の反応を見極めながら検討しています」(同)

 いまだ小さな子供を連れた親にとって、長距離を鉄道で移動するハードルは高い。それでも鉄道各社は子連れにとって利便性の高い鉄道を目指し、そして子連れじゃない人たちにとっても快適な車内空間を実現できるように工夫を重ねる。

 2013年、国土交通省を含め鉄道各社が「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」を立ちあげている。

 それまで、鉄道車内は「ベビーカーは折りたたむ」という意見が支配的だった。しかし、協議会が熟議した結果、「ベビーカーを一律に折りたたむことは安全面からも困難。状況にもよるが、ベビーカーは折りたたまなくてもよい」との結論を出している。

 協議会の方針は、世間に広く浸透しているとは言い難い。しかし、協議会が結論を出してから、ベビーカーを乗車させやすいフリースペースを設けた車両は加速度的に増えている。要するに、鉄道各社が子連れ乗車に理解を強めているのだ。

 ベビーカーへの対応は歳月とともに変わっていくだろう。同様に、子連れ乗車への対応も変わるに違いない。鉄道会社が子育てを応援することは、少子化対策の一助になるはずだ。

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