武蔵小杉のマンション群(時事通信フォト)

 そのような中、「NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント」を筆頭に、「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」以下12のマンションの管理組合理事長が名を連ねた「水害対策に関する小杉駅周辺高層マンション地域の要望書」という川崎市長宛の文書が公表された。

 文書の日付は「2020年1月21日」。この「要望書」の一枚目下段には「(回答期限)」2020年3月31日」という一文も見られる。内容は28項目に及び「優先度」として「緊急(2020年3月まで)」、「短期(2020 年7月まで)」、「長期(2021~2022年)」と3つのカテゴリーに分けられている。

 要望書を整理すると、概ね次のようになる。

(1)多摩川への樋管と樋門の管理や運用に関すること
(2)マンション住民のための避難所設置
(3)ハザードアップの改訂
(4)JR横須賀線「武蔵小杉」駅近辺の冠水対策
(5)マンション住民への緊急連絡手段の整備
(6)マンションの電源を高層階に移転するための補助
(7)その他小河内ダムや多摩川浚渫などの行政関連

 内水氾濫による浸水被害に遭ったマンションの管理組合として、川崎市長へ様々な対策を「要望」しているのである。しかし、中身をよく見ていくとかなり疑問に思える内容もある。

 まず、今回の内水氾濫の主因とされる多摩川への樋管と樋門に関する事項はもっともである。樋門閉鎖に12時間も要した原因はいまだ明らかにされていない。もし、速やかに閉じていれば今回の浸水被害は防ぐことが出来たかもしれないのだ。

 しかし「ハザードマップの改訂」とか「避難所の確保」、あるいは「予備電源ポンプの高層階移転や増設費用の補助」などは、何とも不可思議な要望である。

 ハザードマップに関しては、今回のような内水氾濫を想定していない状態で作成されたものであって、樋管や樋門の運用が見直されても地形上の問題点は解消されない。あのエリアは元々沼であったことから、今でも低地である。むしろ今回の内水氾濫を加味して、ハザードマップでの危険度を上げてもよいはずだ。

 また、あれだけ多くのタワマン住民を避難させる場所を近隣に確保するなど、物理的に不可能であり、それが行政の責務とも思えない。

 そもそも災害時の避難所というのは、自宅にいれば命の危険が及ぶ人たちのためのもので、トイレやエレベーターが使えない程度では「命の危険」とは言えない。排泄に関しては、管理組合が用意していた簡易トイレを活用すればしのげる部分も多い。

 そして、予備電源の移設や増設は、私有財産上の問題である。その整備に税金を投入するのは、よほどの理由が必要だ。この場合、多くの川崎市民は一部のタワマンの設備整備のために自分たちの払った税金が使われることに納得できるとは思えない。

あわせて読みたい

関連キーワード

関連記事

トピックス

高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン