ビジネス

ブラック企業を転々、現在求職中の41歳男性が持つこだわり

 いま清水さんに必要なのは40歳を過ぎて仕事が決まらない現実と向き合うことだ。上場企業や立派なビル、ホワイトカラー、そろそろそんなこだわりから下りることも考えるべきだ。地元の連中からの痛い視線のことは清水さんが思っているだけであり、もう彼らには妻も子もいて清水さんのことなんか忘れている。自分の人生を生きるのに他人の目など必要ない。ブラック企業が跋扈する氷河期を乗り越えて来ただけでもたいしたものだ。あとは意味のないプライドとこだわりを捨てるだけだ。そうでないと本当に詰む危険性がある。

「僕が親の面倒を見なくていい三男坊なのは救いです。兄は二人とも地元で働いてますが、高卒で工場のブルーカラー、結婚して子どももいますが仲はよくありません。甥っ子や姪っ子とも何年も会ってませんが、再就職が決まったら戻ってオモチャでも買ってあげようと思ってます」

 いや、兄二人のほうが社会的評価はずっと上だ。なるほどこの言い草、しくじり続けた清水さんが現実的な将来へ進むための補正には、時間がかかりそうだ。端々でホワイトカラーという言葉にこだわり、ブルーカラーを下に見る態度もこれだったのか。もはや形骸化したこの両者にこだわるところは昭和を引きずっているというべきか。

「趣味はとくにありません。ネット三昧ですね。無趣味にとってネットは最適な暇つぶしですよ」

 清水さん、案の定ネットで罵詈雑言を撒き散らしているという。詳しいことは意地でも話してくれなかったが、私は転職活動や情報収集以外のネット利用は断つべきだと提案した。極端な悪意ある匿名の意見は、人生のリアルには有害でしかない。

 今後、団塊ジュニア・ポスト団塊ジュニア含めてネットとの付き合い方は各々再検討すべきだろう。幸せでないからネットに悪意を撒き散らすのではなく、ネットに悪意を撒き散らすから不幸になると考えるのが自然ではないか。それに清水さんは見ず知らずの連中ではなく、血の通った両親や兄たち、かわいい姪っ子や甥っ子を大切にし、素直に接したほうがずっと有意義だと思う。誰と比較するのではなく、幸福とは絶対的なものであるべきだ。相対化せず、絶対化した自分だけの幸福に生きることが必要だ。でなければいつまでも「しくじり」のままだ。

「いずれ僕も結婚したいし子どもも欲しいので、次は長く続く会社に勤めたいんで、今度こそ妥協できません」

 いまのところ相手はいないそうだ。

「付き合った女は何人かいるんですけど、みんな口を揃えてつまんない男って言うんですよ。みんながみんなでっかい夢を持ってるわけじゃないっての。ネットで知り合った女は僕のことを真面目系クズとか言いやがりました。わけわかりません」

 真面目系クズはあんまりだが、いまとなってはたいそうな夢がないことは、地に足のついた職探しのためには逆に好都合だろう。全部ひっくるめての正念場、まずはアラフォーの再就職という壁を乗り越えるところからだ。清水さんはある意味、一人暮らしの長いしたたかなサバイバーだ。飄々と乗り越えることだろう。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

関連記事

トピックス

“激太り”していた水原一平被告(AFLO/backgrid)
《またしても出頭延期》水原一平被告、気になる“妻の居場所”  昨年8月には“まさかのツーショット”も…「子どもを持ち、小さな式を挙げたい」吐露していた思い
NEWSポストセブン
露出を増やしつつある沢尻エリカ(時事通信フォト)
《過激な作品において魅力的な存在》沢尻エリカ、“半裸写真”公開で見えた映像作品復帰への道筋
週刊ポスト
初めて万博を視察された愛子さま(2025年5月9日、撮影/JMPA)
《万博ご視察ファッション》愛子さま、雅子さまの“万博コーデ”を思わせるブルーグレーのパンツスタイル
NEWSポストセブン
憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
尹錫悦前大統領(左)の夫人・金建希氏に贈賄疑惑(時事通信フォト)
旧統一教会幹部が韓国前大統領夫人に“高級ダイヤ贈賄”疑惑 教会が推進するカンボジア事業への支援が目的か 注目される韓国政界と教会との蜜月
週刊ポスト
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(左・時事通信社)
【東大前駅・無差別殺人未遂】「この辺りはみんなエリート。ご近所の親は大学教授、子供は旧帝大…」“教育虐待”訴える戸田佳孝容疑者(43)が育った“インテリ住宅街”
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
【エッセイ連載再開】元フジテレビアナ・渡邊渚さんが綴る近況「目に見えない恐怖と戦う日々」「夢と現実の区別がつかなくなる」
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』が放送中
ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も大好評 いつまでのその言動に注目が集まる小泉今日子のカッコよさ
女性セブン
田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン