そんな映画好きだからこそ、斎藤は出演作を予算や規模では選ばない。年間200本近くのインタビュー取材をこなす映画ライターの磯部正和氏は言う。

「斎藤工さんは大手配給のメジャーな作品はもちろんですが、バジェットの小さい単館系の作品にも出演しています。しかもメジャーな存在になってからも、夜の深い時間に行われる舞台挨拶などにも積極的に参加し、作品を盛り上げています。一人でも多くの方に作品を観てもらいたいという映画愛を強く感じる俳優さんです」

「自分」より「映画」を優先させる斎藤は、自身のことを映画を作る上での素材だと見ている。その上で、作品にあった役割を客観的に分析し、演技に落とし込んでいるのではないだろうか。しばしば「モデル出身の俳優なんてどこにでもいる」と評するほど、役者としての自身を過大評価することはない。だからこそ、冷静に自分の良さを引き出せる。斎藤にはそんなクレバーさを感じずにはいられない。

 昨年公開された映画『MANRIKI』では、「cinema bird」でも一緒に活動した友人でもあるお笑い芸人の永野と共に企画・プロデュースを担当しつつ、自ら主演も務めた。

 映画メディアのインタビューで斎藤は「本当は自分が制作側の作品であれば、僕は一切出たくないんです。自分という素材を信用していないので、僕が出るべきじゃないというのが個人的にはあります。でもプロジェクトがどう転んでいったらうまくいくかということを考え、時として自分を前に出していった方が収まらなくはない」と語っている。

 自分ファーストではなく、あくまで作品ファースト。斎藤工の映画愛はこの先も止まることなく溢れ続けるに違いない。

●取材・文/大木信景(HEW)

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