◆ハイリスク、ハイリターンの長編ミステリー
『テセウスの船』が「今期最高」と言われる理由には、テンポのいい物語に加え、雪山での壮大なロケ、寒さの中で際立つ主演俳優・竹内涼真さんの熱演、家族役に朝ドラと大河ドラマの主演を4人そろえた、シリアスな事件の中に家族の温かさを感じるシーンなどが挙げられます。
冬らしい季節感の漂うドラマは当作だけであり、そこで実力派の俳優たちが熱演しているのですから、支持されて当然でしょう。加えて、2話終了時に探偵学校の講師と生徒を集めた「考察大会」を行い、そこで原作者が「犯人は原作漫画とは異なる」というコメントを発表し、「#犯人考察」というハッシュタグを押し出すなどPRの工夫も見られました。つまり、プロデュースのすべてが機能しているのです。
一方、『10の秘密』は、ネット上のコメントを見続けていると、目につくのは「なかなか話が進んでいかない」「思っていた通りの秘密だった」など物語への不満。同作はオリジナルだけに、一から物語を構築していく難しさが出てしまったのかもしれません。「ふだんと違う向井理の姿は新鮮」「渡部篤郎、佐野史郎、仲里依紗、名取裕子などいい俳優をうまく使ってほしい」という声が散見されるなど、キャストへの不満はさほどないようです。
長編ミステリーの見せ場は終盤だけに、『10の秘密』も、どん底の現在よりは盛り上がるでしょう。しかし、それでも中盤でここまで厳しい結果となってしまった以上、「『テセウスの船』のように絶賛や高視聴率を得ることは難しい」と言わざるを得ないのです。
もともと長編ミステリーは、回を追うごとに「謎が深まる」「登場人物への愛着が増す」など視聴者の熱が上がりやすい反面、「一度見逃すと二度と見てもらえない」というリスクの大きいジャンル。いわゆる「ハイリスク、ハイリターン」のギャンブル的な要素が濃く、その賭けに『テセウスの船』は勝ち、『10の秘密』は負けてしまったのです。