「『東大が難しい』という言葉は、東大を知らない人が思っている固定観念、思い込みにすぎません。これが、東大受験を難しくしているいちばんの要因だと思います。難易度だけでいったら、東大が突出して高いとはあまり思いません」
永見さんはもともと勉強ができるタイプで、小1で掛け算、小2で分数の足し算引き算が解けるほどだったという。が、小2で両親が離婚してから勝手が変わった。母親に心配をかけまいという気持ちはあったものの、勉強をする習慣が身につかず、ヤンキー色の強い公立中学に入学後、成績は中くらいに。中3の三者面談では母子揃って「どこでもいいです」と答えるほど「投げやり」な高校選びだった。しかし「偏差値の高い高校で下の方にいるよりも、偏差値の低い高校でトップを取った方がいい」と気持ちを切り替え、横浜国立大学を目指すことにしたという。
「小さい頃から自分は頭がいいと思っていたし、やればできると思っていました。運動が苦手な自分には、スポーツを一生懸命やる意味がわかりませんでしたし、(論理的思考や計算などが得意といわれる)左脳で勝負するしかないと思ったんです」
高2の1月にセンター試験同日模試を受験し、横国はA判定。それどころか東大合格者の同時期の点数との差がわずか90点だったことから、“このまま1年勉強すればいける”と、 密かに東大を射程範囲に入れることにした。
「高2の後半からこんなに勉強していたのはクラスではぼくだけ。休み時間もずっと問題を解いていたり、運動会では競技の合間に単語帳を開いたりするので、クラスから浮いた存在。孤独を感じて寂しかったです。でもいちばんきつかったのは、担任に志望大学を伝えたときですね」
担任はしばらく彼を見つめた後、「東大に行けると思わせてしまい、申し訳ない」と言ったという。続けて、これまで同校に東大合格者がいないことや東大受験を指導する力がないこと、東大に合格できるかどうかを測る指標すらないことなどを挙げ、永見さんが東大に合格できないことを前提に話が進められたという。
「これこそが“東大=難しい”という刷り込みです。実は東大受験のことをよくわかってないし、分析もしていないのに、東大は難しいとしかいわれてないから、東大は目指せないと、高校内の情報で意思決定してしまう。これが、生の一次情報を獲りにいけない非進学校ゆえの不利な状況だと思います」
担任の後ろ向きな言葉に発奮した永見さんは、その後、センター試験で9割近い得点をたたき出し、東大射程圏内に入った。しかし、またもや非進学校ならではの情報の弱さが露呈する。「東大はセンター試験でいくら点数がとれても受からない」といわれるほどの二次試験の重要性を知らず、二次試験対策を始めたのがわずか3週間前。30点足りずに不合格となってしまった。