大手メディアで報じられることのほとんどなかったこの出来事が、多くのネット保守層を失望させたと新田氏は指摘する。
「何より問題は、自民党が請願に賛成せず保留に回ったことです。安倍さんがその気になれば賛成できたはずなのに、自民党は請願を握りつぶした。しかも原さんは安倍首相が主張する規制改革を引っ張ってきたキーマンです。功労者の人権を蔑ろにするような安倍首相のふるまいに多くのネット保守は憤り、改革への本気度を疑うようになりました」(新田氏)
実際に新田氏にはネット保守層から、〈安倍総理及び自民党議員は、この問題を過小評価していると大きな間違いを起こす〉といったリプライが多数送られた。
「森議員や野党に対する怒り以上に、安倍首相と自民党への不信感が目立ちました。霞が関の働き方改革の頓挫や大学入試改革の中止なども重なり、何も決められない政治に愛想をつかし始める保守層も現れた。一部の動きではありますが、不満を持つ人のなかには、より先鋭的な政策を掲げる『NHKから国民を守る党』や『れいわ新選組』を支持する者も出てきました」(新田氏)
こうして支持層の不満がぐつぐつと煮えたぎるなか、今年に入っても安倍政権の失策はとまらなかった。
自民党の河井克行・杏里夫妻に常識外れの選挙資金1億5000万円を提供しながら選挙違反疑惑を追及せず、厚労省の大坪寛子審議官と“不倫コネクティング出張”をした和泉洋人首相補佐官の責任も問わない。これまでには考えられない杜撰な対応にネット保守層は安倍首相の変質を感じ取り、現政権への失望を隠さなくなった。
それに拍車をかけているのが、政府の新型コロナウイルス対策への不信だ。たとえば、2月26日の衆院予算委員会で立憲民主党の枝野幸男議員が行った質疑について報じた記事へのネットの反応は象徴的だった。クルーズ船乗客への対応の不手際やPCR検査の体制不備などを質し、政府全体の危機意識のなさや当事者意識の欠如を指摘した枝野氏に同調するコメントが多数寄せられた一方で、これまでなら一定数はあった安倍首相シンパの“カウンターコメント”がほとんど目立たなかったのだ。
政府の対策には、これまで安倍首相を支持してきた産経新聞や百田尚樹氏ら保守層も異論を唱えるようになった。憲政史上最長を記録した安倍内閣が、その求心力を取り戻すことはもう難しいかもしれない。
●取材・文/池田道大(フリーライター)