さらに小野寺氏は、「政権の不正に対して、告発するか忖度するか、悩みまくる官僚の役を、アツく繊細に演じている」と松坂の演技力の高さについても評価する。寺脇氏も、「人気俳優でありながら政権批判のメッセージを込めた映画に出ることはハードルが高い。よく出演を決意したと思う」と同様の見解を述べながら、その裏事情について次のように続ける。
「最近、こういった映画への出演を事務所が忖度して拒否するという風潮が広まってきている。社会派映画だけじゃなくて、かっこ悪い悪役とかもそう。事務所が役者のイメージを守ろうとして、出させないようにしている。でも本当はそういう役柄のほうが、俳優として成長できるし、やりがいもあるものなんですよ」(寺脇氏)
リスクをともなう役柄に挑戦してこそ優れた俳優へと成長する。LiLiCo氏は、まさにこうした挑戦によって松坂の魅力は発揮されるようになった、という。
「松坂桃李さんはちょっと悪い役をやるようになってから一気に変わりましたよね。そこから役者魂の深堀りみたいなものの勢いが止まりません。ハンサムなのはみんな知っていること。その奥にある繊細な演技を見てほしい。役が松坂さんにまとわりつく様になりました。いい年の取り方をしていて、つい彼が出ているものを先に見に行きがち。あと松坂さん、手がとても綺麗です(笑)」(LiLiCo氏)
以上、本稿では、日本アカデミー賞にノミネートされた俳優のなかから“勝手に最優秀賞”として、『新聞記者』で主演を務めたシム・ウンギョンと松坂桃李に賛辞を捧げることとする。なお、『新聞記者』は独立系映画会社のスターサンズが制作・配給している作品だが、今後も大手映画会社のものだけではなく、より多様な作品が日本アカデミー賞の候補に挙がることを願ってやまない。
●取材・文/細田成嗣(HEW)