旅先は昭和の事件、負の歴史と関わるところが多い。共産党の武装闘争と新左翼赤軍派の武闘訓練(峠)、ハンセン病患者の隔離(島)、オウム真理教事件(麓)、軍事演習(台)など。現在では住宅地になっている相武台はかつては軍事演習の地だったなど蒙を啓かれる。また奥多摩を歩き、戦後の共産党の武装闘争(山村工作隊)が思い出されるところなど歴史の重さを感じさせる。
『大正天皇』『昭和天皇』『皇后考』の著書がある著者は天皇の動向に詳しい。本書を読んで驚くのは平成の天皇御夫妻が実によく日本各地を旅していたこと。平成の天皇は天皇としてはじめてハンセン病の施設がある長島も訪れている。「旅する天皇」は意外なことに「旅する学者」と重なる。
※週刊ポスト2020年3月13日号