もともと自由律に興味を持っていたせきしろは、詠み合える仲間を欲していた。ずっと気になる存在がいた。お笑いコンビ・ピースのボケ担当である又吉直樹だ。ライブ等で観て、言葉のセンスに自分と似たにおいを感じていた。
知り合いを通じ、初めて会ったのは2008年夏。夕飯を食べながら、せきしろは又吉に自由律俳句のことを熱っぽく語り、自分の句を披露した。
翌朝、せきしろがパソコンを開くと、又吉からメールが入っていた。そこにはスクロールしてもスクロールしても途切れることのない自由律俳句がおよそ100句並んでいた。
又吉が思い出す。
「あの頃は無限に時間があった。次の日の予定もないし、永遠にできるんじゃないかと思うくらい次から次へと句が浮かんできた」
芥川賞を受賞し、記録的ベストセラーとなった『火花』を世に出す7年前のことだった。
一度にあまりに大量の句を送り付けたため、又吉は「せきしろさんは、恐怖やったと思いますよ」と気遣うが、メールを受け取った方は小躍りしていた。
「温泉も、原油も、一緒に出てきた感じでしたね」
それからというもの、二人は定期的に居酒屋などで互いの句を披露し合った。又吉は自由律俳句の魅力をこう語る。
「僕は定型句もやったことがあるんですけど、定型句は『5・7・5』が、ものすごく強い発射台になっている。だったら、そのまま利用すればええんやけど、自由律の中にも、言葉によっては気持ちのいいリズムや親和性の高いリズムがある。それを見つけるのが楽しいんですよね」