世知辛い現実に対して、「教育とは愛だ」と理想を語る熱血教師・徳川龍之介の姿が視聴者の心を捉えたのだろう。田原は『教師びんびん物語』シリーズ人気の秘訣について、こう分析していた。
〈時代に合ってるんじゃないかな。徳川龍之介のキャラクターっていうのは、非常に端からみたら赤面するようなとんでもないこと言うでしょ。(中略)“愛はどうのこうの”、愛を語り始めるでしょ。その部分って、けっこうみんな本音として持ってて、でも、それが言えなかったりして。彼が言うとさらりと受け入れられたりする。シリアスなところと、とんでもない大ボケなところがある。その辺のギャップがいいんだと思うんだけど〉(『オリコン』1989年5月15日号)
徳川が真面目に熱く語るシーンもあれば、「せんぱ~~い!」と慕う後輩教師・榎本英樹(野村宏伸)との掛け合いで和ませる場面も随所にあり、視聴者を飽きさせなかった。
『教師びんびん物語』は4月4日に始まり、6月27日に終わる。学園ドラマの定番である卒業式はなかったが、銀座第一小学校の廃校が決まり、徳川と生徒は1学期終了とともに別れを迎えた。最終回、徳川が直筆の卒業証書を生徒ひとり一人に渡し、クラスは涙に包まれた。亀山氏はのちに、こう振り返っている。
〈顔合わせの日、田原が、緊張している子役たちを見て、私にこう言った。「この子たちが、打ち上げの日に本当に泣いたら、この番組は当たるネ」。打ち上げどころか彼は、本番中に子供たちと泣いた。あの印象的なラストシーンである〉(前掲『調査情報』)
設定によって、6月終了ながらも自然な形で学園ドラマに欠かせない“別れ”を盛り込んだ『教師びんびん物語』は最終回23.7%、全話平均視聴率22.1%を記録。この時点での『月9』最高であり、初期の同枠を牽引する人気シリーズとなった。もし亀山氏の頭に「学園ドラマは卒業シーズンに放送すべき」という固定観念があったら、名作は生まれなかっただろう。
◆文/岡野誠:ライター。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では『教師びんびん物語』や『抱きしめてTONIGHT』のヒットを、野村宏伸などへの取材や膨大な資料から多角的に分析。好きな徳川龍之介の台詞は〈人生は闘いだ。自分の生きていく場所を用意して貰えないことだってある。そしたら自分で、自分の場所を作らなければいけない〉