阿部一二三対策も行ってきたという丸山
丸山の練習を遠くから眺めていて、すぐに気付いたことがあった。次々と代わる練習相手がやたらと右の変則組み手で丸山に向かっていくのだ。不十分な体勢からでも強引に背負い投げや袖釣り込み腰といった担ぎ技を繰り出してくる「阿部一二三対策」に違いなかった。穴井監督が明かす。
「練習相手には阿部選手になりきらせていました。もともと決まっていた練習メニューで、たまたまその日に、井上監督が視察に訪れただけ。全日本の監督が来るからといって、僕らが稽古内容を変えることはありません」
新型ウイルスの感染拡大は、少なからず大学の稽古にも影響を与えていた。
「感染予防のために、練習に影響が出ているのは事実です。(他大学などからの)出稽古を受け入れられなくなりましたし、こちらから出向くことも許されない。いろいろと制約はありますが、試合に与える影響というのはない。ゼロです。コロナ対策としてうがい・手洗いを欠かさないのと同じで、僕らは当たり前の稽古を当たり前にやって、試合を迎えるだけです」
大一番を前にした最終調整に余念がなかった丸山だが、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と安倍晋三首相が電話会談を行ない、「1年程度延期」が発表された。
◆応援に行けない恩師
兵庫・神港学園で総監督を務める信川厚氏は、無観客で行われる予定だった選抜体重別を前に、教え子に電話を入れ、応援に行けないことを伝えていた。全日本柔道連盟から、会場に入れるのは出場選手と所属の監督、練習パートナーに限ると通達があったのだ。恩師に対し、阿部は関西のイントネーションでこう告げた。
「(吉報を)待っといてください」
取材時は、選抜体重別の中止が決まっておらず、信川氏が複雑な心境を吐露していた。
「知り合いが中に入れるので逐一、報告をもらう予定です。無観客やし、これまでとは全く違う雰囲気で戦うことになる。丸山選手と一二三、お互いが力を発揮できる環境を作ってもらえたら……。もし大会が中止となったとしても、66kg級だけは、一対一の直接対決だけでも決行してもらいたい。死に物狂いで頑張ってきたふたりです。白黒はっきりつけさせてあげたい」