「咳が出ていたので正直に申告すると、受付の女性から『申し訳ありませんが、一つでも該当すると診察できません』と言われました。『少し咳が出るだけです』と食い下がっても、『保健センターにご相談ください』の一点張り。泣く泣く受診を諦めました」
A氏が後日、地元の保健センターを訪ねると、担当者にこう説明されたという。
「新型コロナ陽性が疑わしい患者か、その濃厚接触者に該当しなければ、医療機関は問題なく受診できる。ただし、各クリニックが『わずかでも感染の恐れがあるなら受診しない』と独自の基準を設ける例があります。そのさじ加減は各医療機関の判断に委ねられているのが現状です」
すでに医療従事者や職員に陽性患者が出て外来を閉鎖したり、陽性患者の通院によって院内感染が広がり、医療現場がパンクするケースが発生し「医療崩壊」の危機が指摘されている。
また、世界的な需要の急増でマスクやアルコール消毒液が不足し、自主的に休診する医療機関が増えている。さらに最近では、体調に不安を感じて病院に行っても、受診できずに追い返されてしまうケースが増えているのである。
なかでも懸念されるのは、A氏のように「命の危険に直結する病気」の兆候を訴えても、診察や検査が受けられない事態だ。
「最も心配されるのは脳に関連する疾患の発見が遅れることです」。そう指摘するのは、くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長(脳神経外科)だ。
「たとえば、くも膜下出血の初期症状では、頭がズキズキ痛んだり、目まいが生じるケースがあります。その時点で早期発見できれば処置が可能なのに、軽い発熱や咳で受診を拒否されると、手遅れになる怖れがあります」(工藤院長)