その石井氏が同時期に手がけたのが1970年スタートの『ありがとう』(TBS系)だ。この作品は民放ドラマ史上最高視聴率の56.3%を記録した。
主役には歌手の水前寺清子を抜擢。母役の山岡久乃との激しい親子喧嘩が定番シーンだった。
「水前寺さんがお母さんに反抗してちゃぶ台をひっくり返すんだけど、母の手料理が台無しになってしまい、その後で後悔する姿にジーンときました。水前寺さんを石坂浩二さん演じる恋人に嫁に出すシーンでは、山岡さんが目を潤ませながら送り出す姿にグッときた」(66・会社役員)
水前寺本人が、当時の演技を振り返る。
「思い出深いのは、山岡さんが私の頬を引っぱたくシーンです。親にも叩かれたことがなかったので、石井先生には『絶対にイヤ。本当に叩くのはなしにしてください』とお願いしていたんです。
ところが本番では、“ビターン”と音がするほどお母さん(山岡)に思いっ切り叩かれた。びっくりしましたが、お母さんの顔をぐっと睨みつけて、ニヤッと笑うと、自然とボロボロ涙がこぼれたんです。そのシーンが次週の番宣に使われて、視聴率もグンと上がった。
何十年も後になって石井先生に聞くと、山岡さんには『叩いてもいいから』って言っていたそうです。あのドラマに出演できたのは私の誇りですね」
※週刊ポスト2020年4月24日号