ビジネス

40億円の借金を背負った居酒屋経営者の「秘策」

居酒屋数店舗を経営する湯澤剛氏

 コロナ禍で苦境に瀕している人は多いが、飲食業界はとりわけ大きな打撃を受けている。休業要請により店を閉めざるを得ず、収入を絶たれる店舗も多い。かつて、居酒屋を経営する父の急逝である日突然40億円の借金を背負い、命の危機・自己との壮絶な闘いを経て完済、復活した経験を著書『小心者のままでいい』(小学館)で著した湯澤剛さんは今も父の跡を継いで居酒屋数店舗を経営している。先が見えないコロナ禍で再び大きな逆境を迎える中、どんな思いでいるのか、話を聞いた。

 * * *
 今は、過去に例を見ない厳しい状況が続いています。弊社では、3月売上は60%減、4月は80%減、緊急事態宣言以降は店を閉めています。周囲からも「閉店」「廃業」の声が聞こえてきます。弊社は資金の手当てもしたため、数ヶ月は持ちこたえられると思いますが、それ以上になると雇用の維持が難しくなってきます。売上がなく、支払いのみが流れ出していき、資金の残高を睨んではハラハラする日々が続いています。

 ただ不安や恐怖の中にいれば、それは頭の中で大きさを増すばかりで、そのうち自分自身が飲み込まれてしまうことは、かつて40億円の借金を背負ったときの経験から学んでいます。こういうときにしなければいけないのは、「今やるべきことに集中すること」。今回それは、以下のようなことでした。

●資金の手当てが第一。融資は政策金融公庫に資料提出済みで、連絡を待っています。また、鎌倉の松尾市長は、店舗家賃の補助という思い切った施策を打ち出してくださり、本当にありがたいと思っています。

●今後を考えれば、少しでも営業してキャッシュを得たいが、いつからどのような形で再開するのがよいのかをシミュレーションする。具体的には、テイクアウトの商品力アップと原価設定などの見直しが急務。

 平常時には「何となく」回っている業務も、ストレス時には問題が露呈します。社内には自分のことだけを主張する人が現れ、人間関係がギクシャクし始めます。経営者として、わかっていながらも目をつぶり手をつけずにいた多くのことが噴出し始める。東北大震災のときもそうでした。リーダーとしての自分の力量不足に苦い思いを抱くばかりです。

 また、私は生まれ持っての「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン=他人の言動、音、光など細かなことに敏感で影響を受けやすい気質のこと。病気ではない)」であり、臆病で人一倍不安な気持ちをひきずりやすい性質です。それを克服するために、40億円の借金で途方に暮れたとき自分で見つけた解決法の一つが、5年間の「日めくりカレンダー」でした。

 著書『小心者のままでいい』にも書きましたが、どんなに結果がでなくても、先が見えなくても、1827日=5年間だけはやり抜くと決めました。1日1日を乗り切るという「プロセス」に集中するのです。そして5年やりきって、そこで状況が悪化していたら、破産でも何でも受け入れる、そう決めてから一気に心が楽になりました。

 1日分の紙を剥がすときには、そんなことでも「今日も1日やりきった」という達成感と、ゴールに一歩ずつ近づいているという喜びがありました。

 今回は、もちろん5年間ではありません。6月30日までの70日間が勝負! 余計なことを考えず、とにかくこの70日間を乗り切ることに集中する。7月ころには状況は少しは変わっているはずです。先のことがわからないとき、結果が見えないときは、結果にコミットするのではなく、とにかく1日1日を乗り切るというプロセスに取り組むことが大事です。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン