ここで湧き上がってくるのが「潜伏期間中はウイルスをばらまくことがないのか?」という疑問だ。新潟大学医学部名誉教授で予防医療学が専門の医学博士・岡田正彦氏は次のように解説する。
「米国の科学雑誌『サイエンス』に発表された米、英、中国の大学の合同研究によると、中国の武漢を中心とした375都市の感染者1万1829人のデータをもとにシミュレーションした結果、都市封鎖前後で感染性期(人にうつす感染性を擁する期間)は、封鎖前が3.47日、後が3.31日でした。
つまり、発症後3~4日は人にとくにうつしやすいことがわかる。一方、発症前は人にうつすほどウイルスが増えていないので、感染力は低いと考えられていました。ところが同研究から、たとえ無症状であっても、発症している人の5割くらいは感染させる力があることもわかりました。そのため、人と人とが近距離で接触しないことが全体の感染リスクを減らす唯一の方法なのです」
「発症していなくても自分の体内にウイルスがいるかも」と思って過ごすことが重要であることがわかる。
【4】それをどう殺すのか
新型コロナウイルスに対抗する手段は、ワクチンと治療薬しかない。ワクチンには2つあり、ひとつがウイルスを弱毒化させた「生ワクチン」であり、もうひとつが熱や化学物質によって殺したウイルスや細菌からつくる「不活化ワクチン」である。
このワクチンは感染した人の抗体からつくるため、比較的早期に開発できる。映画『感染列島』でもパニック発生から半年でワクチンが開発され、パンデミックが収まっていく様子が描かれている。予防接種で体内に取り込むのはこのワクチンなのだ。
だが、ウイルスを直接退治する治療薬となるとそうはいかない。インフルエンザにおける「タミフル」や「リレンザ」がそれだが、これらの開発には少なくとも十数年かかると言われている。新型コロナウイルス疾患の重症化を防ぐのに有効であると期待されている「アビガン」も抗インフルエンザ薬のひとつだが、専門家によれば新型コロナウイルスに対する有効性についてエビデンスレベルが高いとは言えず、現状では安易な処方は許されない。
ワクチンや治療薬がない状況下では、人間の体に本来備わっている免疫系の機能によってウイルスの増殖を抑えるしかないのが実情だ。