この先、自粛が徐々に緩和されてもウイルスがどこかに消えるわけではなく、ワクチンや特効薬の開発、流行を終息させる集団免疫の獲得には多くの時間がかかると予想される。
誰も想像しなかったいまの状況を乗り越えるためには、絶望に沈まなかったナチス収容所の生き残り女性にならって、「首尾一貫感覚の再構築」が求められる。なかでも有意味感を高めることが重要であると舟木氏は言う。
「コロナの苦境にも意味があるという有意味感を持てれば人生に前向きになり、そこから把握可能感や処理可能感につながることもあります。そこで注目したいのが、ユダヤ人強制収容所を体験して名著『夜と霧』を書いたユダヤ人心理学者のヴィクトール・E・フランクルです。彼は、死が隣り合わせにあっても“苦しむことそのもの”には意味があり、それは精神的に何かを成し遂げることであると言いました。これが有意味感の最も深い部分です。
この考え方をコロナの状況で言うと、自粛などで不便を強いられる時間を過ごすことそのものが精神的に成長できる機会だ、ということになります」(舟木氏)
◆コロナ禍で見える「人間の本性」
コロナという厄災こそ自分を成長させる機会だととらえられれば、有意味感はぐっと高まる。それとともに取り組みたいのが、この先を見据えた「内観」だ。
「外出自粛や新しい生活様式でリアルな人間関係が少なくなるなか、まずは自分の人生を見つめ直して、これから先をどう生きるべきかを考えてほしい。志村けんさんや岡江久美子さんの死が教えてくれるように、明日発症して家族に何も言えないまま死ぬこともあり得るわけで、誰に何を伝えておきたいかを整理しておくべきです。
また非常時には、それまで見えなかった人間の本性が見えてきます。面倒見がよいと思っていた人が保身に走り、欲がないと思っていた人が高額でマスクを転売するケースもある。そうした状況だからこそ、自分にとって本当に大切な人は誰か、どれが無駄な人間関係かなどが見えてきます。それに人のふるまいを見て嫌気がしたら、“私はあの人の何が嫌なんだろう”と掘り下げて考えると自分のなかの深い部分が見えて、これからどう生きるべきかを考えるヒントになります」(舟木氏)