ここから検察官は独立した特例の存在となり、検察庁法が国公法より優先されることも明記された。検事総長が法務検察のトップと格付けられているのは、検察庁が法務省より上位組織であることを意味する。
だが、今度の定年延長は、官邸がそんな組織論を理解せず、検察官の人事に手を突っ込んできた結果、というほかない。
過去、安倍政権は2016年9月と2018年1月の2度、法務省人事に介入してきた。いずれも黒川のライバルの林を事務次官にしようとすると、官邸が差し戻し、林に代わって黒川が事務次官を務めてきた。したがって今度は3度目の政治介入となる。が、過去の事務次官はあくまで法務省人事であり、検察庁人事ではない。
法務省の幹部人事は他の霞が関の省庁と同じく、内閣人事局が決定権を持つ。内閣人事局を差配してきた官房長官の菅が了解していなければならなかった。そのため、この時点では菅の関与は間違いない。
だが、検察官の定年延長は、これまでの霞が関の官僚支配とは別次元の話である。検察庁のトップ人事は内閣人事局があってなお、政治の立ち入れない特別な存在として扱われてきた。
これまで何度も人事を差し戻してきた官邸が、法務省に従っただけと突っぱねるには、さすがに無理がありすぎる。「法務省が決めた」という真っ赤な嘘がバレそうになり、改正法案を引っ込めた安倍政権。ここまで「官邸の守護神」にこだわろうとする理由はなぜか。ひょっとすると、「花見の会」の疑惑を封じ込めるためだったのではないだろうか。
※週刊ポスト2020年6月5日号