「中隊員のジュモクは勤務中にこっそりと韓国の名作ドラマ『天国の階段』を見ていましたが、実際に北朝鮮では韓国ドラマのDVDが闇市で売買されていて秘かな人気です。またドラマにあった通り、北の市場で韓国製の化粧品やシャンプーが闇取引されたり、地方から平壌に向かう列車が停電のため半日以上も停車して、乗客が車中泊や野宿を強いられるケースもあります」(韓国人ジャーナリスト)
本作では、平壌行きの列車のなかで、アコーディオンを演奏しながら合唱する音楽団が登場し、乗客が拍手喝采する印象的な場面があった。
「このシーンは、実際に北朝鮮出身の演奏家が出演して撮影されました。こうした細部にこだわる作り込みもこのドラマの魅力です」(前出・韓国人ジャーナリスト)
日本映画大学の准教授で『ジェンダーとセクシュアリティで見る東アジア』(勁草書房)にも執筆しているハン・トンヒョンさんは、「ビジネスで成功した北の女性像」に注目する。
「同じエリート層に見えるかもしれませんが、幹部家庭のジョンヒョクとは異なり、婚約者ソ・ダンの母親は、おそらく自ら苦労して成り上がった新興富裕層です。経済難のなか、女性たちは職場から疎外されていたからこそ、家族を支えるために市場に参入し、資本主義化していったという経緯があります。闇市で南の化粧品を売っていたのも女性でした」
ちなみにオシャレなダンが身につけていたサングラスやブーツは、現実の北朝鮮ではほぼ見かけないそうだ。気になるのは本作を北朝鮮の人々が見たかどうか。
「最初は北朝鮮でも見られていたようだが、途中で新型コロナウイルスの流入を防ぐために国境が封鎖され、ドラマの密輸が困難になったそうです。北朝鮮では16話中8話までしか見られなかったと報じられています」(前出・韓国人ジャーナリスト)
北朝鮮の当局が本作に猛抗議したとも報じられた。
「北朝鮮の対外宣伝媒体を通じた記事によると、当局はドラマ制作者を『嘆くべき民族分裂の悲劇を金儲けの手段として使い、そこに快楽を感じている者たちこそ、ひとかけらの良心もない守銭奴』と断罪しました」(前出・韓国人ジャーナリスト)
※女性セブン2020年6月4日号