引き金やストレスへの対処法を学ぶとともに、患者は一日の生活スケジュールを立てることを求められる。
「計画を立てて規則正しい生活を送ることは一見性犯罪とは関係なさそうですが、依存症の治療にはとても効果的です。痴漢の常習者は痴漢が生活の中心となり、痴漢をするために帰宅時間や時間の使い方を調整するようになるため、そのようなライフスタイルを変えるためには,まず生活を枠にはめることが重要。空白の時間帯が危ないので、なるべく孤独な時間をつくらず、できれば人と生活時間を共有するようにします。また『家族と週3度食事する』『毎日運動をする』『夜11時までに寝る』など、日常で守るべき生活習慣を最低8つは実践してもらいます。こうした生活習慣を継続的に行うことで、枠から外れて痴漢に走るリスクを軽減できます」(原田教授)
加えて行うのが、危険を察知するための自己モニタリングだ。患者は夜寝る前に一日を振り返り、その日の状態に応じて赤・黄・青で色分けしたシールをカレンダーに貼る。
「一日の行動を振り返り、決められた生活習慣を実践して平穏に過ごせたら『青』、決められた通りに行動できなくてムラムラする時間などがあったら『黄』を貼っていきます。どんな時が黄色になるかは各自が決めますが、生活習慣のルールから少しでも外れたときや『女性を目で追った』ときなど、できるだけ厳しい設定にすることが望ましい。
ここで重要なのは青を続けることではなく、黄色信号に気づいて『このままでは危ない』と思えるようになることです。たとえて言えば、火山が噴火してしまう前に振動や温度の上昇に気づいて、噴火を食い止めることが重要なのです」(原田教授)
また,カレンダーを見直して,青色が続くようになると治療が軌道に乗っていることがわかり,治療効果が一目瞭然となります。これは、日常生活において自分を律し続けるためのモチベーションにもなります。たんなる気分ではなく、行動をチェックすることでいまの状態を客観的に把握することがポイントです。
これらのプログラムを週1回、24週実施して依存症の克服をめざすが、新規の患者は最低2年の通院で経過観察することが望ましいという。外来で行われるグループセッションでは人には言えない悩みを仲間と共有し、一緒に頑張ろうとのモチベーションが生まれて治療効果が増す。規則正しい生活が行われているかどうか、週一度、病院で専門家からのチェックが入ることも痴漢外来のメリットだ。