部屋住みの組員によって作られる食事は、味にこだわりがあるとも聞く。ガレージ当番に出たことのあるという組員は「差し入れが多かったので朝食以外、食堂で食べた記憶がない」というが、「メニューに出ていたのは確か、カレーやうどんだったと思う」とのこと。
どの組もメニューは、普通の家庭で作っているような料理が主流のようだ。その理由を元組長はこう話す。
「和食、日本食は難しい。中華やイタリアンには万能調味料があるけれど、日本食はそうはいかない。市販の出汁を使っても料理屋のような味にはならない。一から出汁を取るにしても、かつお節の量や煮方、産地によって味が違ってくる。出汁の取り方が下手なら、コンビニやスーパーで売ってるインスタントの味噌汁の方が圧倒的に美味いからね」
材料の良し悪しや手間暇よりも、食ってみて美味いかまずいか。結局のところ、当番レシピの秘訣はそれに尽きる。
「簡単にできそうな焼きそばだって特製ソースが必要だ。屋台では、オタフクソースに何種類かの調味料をブレンドしたソースが用意されている。これがなければ、あの屋台の味は出ないのさ」
残念ながら特製ソースのレシピは非公開、企業秘密だそうだ。
元組長のレシピには、意外にもイタリアンも多い。中華と同じで「イタリアンもトマトジュースさえあれば、そこそこいい感じの味になる」ためだ。
「評判がよかったのはトマトスープ。パプリカとひき肉を炒め、そこにトマトジュースを入れて軽く煮込み、こしょうで味を調えるだけ」
若い組員たちが黄色のパプリカが色鮮やかなトマトスープを器から美味そうにすすっている組事務所の光景は、イメージと違ってなんとも想像しがたい。
「コツはどこのトマトジュースを使うかだ。デルモンテだと少し塩辛いから、カゴメのトマトジュースがいいね。酸味もちょうどで『これ、トマトから煮込んだんですか?』と若いのが驚くくらい、美味いトマトスープができる」
料理の味を決める万能調味料のあるなしが、当番レシピのレパートリーを左右するのだ。