◆“人生マニュアル”に沿って生きても幸せになれない
本書が日本でヒットしたのも、少なからず韓国との共通点があるからだ。
「韓国はこれまで、日本の20年前を辿っていると言われてきましたが、格差や自殺率、出生率など、社会問題の観点で見れば韓国が日本を追い抜いています。韓国ほど深刻な状態ではなくとも、昨今の日本も終身雇用が大きく揺らぎ、非正規雇用の比率は増加傾向にある。昨年明るみに出た“老後2000万円問題”や年金の目減りも、日本全体の閉塞感につながっています。同じような問題を抱える特に若い世代は、閉塞感を持つ者同士共感する部分があるのでしょう」(高安さん)
岡崎さんは、「多様な生き方が認められ始めている」と話す。
「日本でも韓国同様、きちんとした会社に就職して何才までに結婚して、子供を産んでマイホームを持って…と、『こうならなければいけない』という“人生マニュアル”がありますよね。でも、そのマニュアルに沿って生きた結果、幸せになれるとは限らない。この本は、そのことに皆が少しずつ気付き始めて、窮屈な正解社会に疑問を感じている人々に刺さったのだと思います。その意味で、多様性を認めようという空気感が日韓ともに少しずつ広がっているのではないでしょうか」(岡崎さん)
他者と比較することは、競争社会に一生身を置き、疲弊し続けることに他ならない。この本は、そうした社会へのアンチテーゼとして広く人々の心に響いたのかもしれない。
イラスト/ハ・ワン 取材・文/小山内麗香