設置当初に公開された「赤ちゃんポスト」の内部(写真/共同通信社)

◆「ばれたらどうしよう」──そこには誰にも言えない大きな問題があった。

 熊本市の発表によると、2019年3月までの約12年間で預けられた子ども144人中、推定で生後1か月以内の新生児は118人。うち1週間以内の早期新生児は76人。生後1年未満の乳児18人。1歳を過ぎたとみられる幼児も8人いる。接触できた親に聞いたところ、預けた理由で最も多かったのが「生活困窮」で、次いで「未婚」「世間体・戸籍に入れたくない」「不倫」と続く。誰にも言えない人たちの「駆け込み寺」として機能する側面がある。また、北海道や関東など全国から預けられている。

 理恵さんはなぜ子どもを預けたのか。理恵さんは結婚して既に5年以上過ぎていたが、なかなか妊娠しなかった。「もう子どもはできないかもしれない」と半ば諦めかけていた。妊娠に気づいたのは、夫と別居して実家に帰っていたときのことだった。生理が遅れ、「もしかしたら」と思った。子どもが欲しかったので、「正直、うれしい気持ちもあった」と振り返る。ただ、大きな問題があった。子どもの父親が夫ではないことだ。

「ばれたらどうしよう」

 喜びと不安に揺れた。妊娠したかもと思いつつ、市販の検査薬を使って調べることはしなかった。

「現実を見なければいいというか、問題から逃げてしまったんです」

 おなかが大きくなり、動きを感じるようになって妊娠を確信した。

「それでも誰にも言いませんでした。言ったらいけないと思い込んでいて」

 もともと細身の理恵さんが大きめの服を着ると、おなかの大きさは目立たなかった。周囲には隠し続けたという。

「隠しているのに、誰か気づいてくれないかなという気持ちもありました。甘い考えなんですが、誰か気づいて、『子どもを育てていいよ』って言ってくれないかなって」

 理恵さんが掛けてほしかった言葉は、意外にも「育てていいよ」だった。赤ちゃんポストはテレビで見て知っていた。妊娠中、慈恵病院のホームページを何度も見て、産んだら熊本へ連れて行こうと決めた。理恵さんは最終月経から、「十月十日」となる出産予定日を計算していた。その2日前の午前5時ごろ、おなかが痛みだしたが、病院に駆け込むことはしなかった。

「江戸時代は家で産んでいたはずだって自分に言い聞かせていたんです。私にもできるはずって」

 誰にも頼らず、たった一人で理恵さんは子どもを産もうとした。里帰り出産した姉が置いていったベビー服を引っ張り出した。陣痛が始まってバスタオルとビニール袋を、風呂場に備えた。

「おなかがすっごく痛かったんです。すっごく痛かった」

 理恵さんはあまりの痛さに携帯電話を取り、慈恵病院にかけた。午前11時ごろだった。

「つなぎますからお待ちください」と言われたが、待っている間に自分から切った。

「何て言っていいか分からず、怖くなってきて…」

「救急車を呼ぼうとは?」と尋ねると、理恵さんは首を大きく横に振った。

「救急車だなんて(思わなかった)! でも、手元にずっと携帯電話を置いていたんです。誰か助けに来てくれないかな、という思いはあったと思います」

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