◆「もし、望んでくれるなら」――預けた娘への気掛かり

 ポストを利用する母親は追い詰められ、迷い悩んでいる。熊本市が設置したポスト検証のための専門部会部会長である山縣文治・関西大学教授は、シングルマザーへの偏見や男性からのDVを指摘する。

「母親に子どもを育てる意思があっても、父親が命令して子どもを置かせるケースもあります。男女間に上下関係があって女性は逆らえず、男性が逃げ得しているケースも少なくありません」

 ポストに関連し、ある医師からは、「自宅で孤立出産する女性の中には精神障害や知的障害、発達障害などの人が一定数いる」と聞いた。彼女たちは妊娠したことにすら気づかず、どうしていいのかも分からないという。「関係者が情報を共有し、その女性を支える仕組みが必要です」と医師は語った。

 実際に預けた理恵さんに「ポストに子どもを預けようと考える人に、何を言いたいですか」と聞いた。

「とにかく誰かに相談してください。一人で考えても何も始まりません。助けてくれる人はいます。相談してください、と言いたいです。助けを求めていいんだって」

 これに関連づけていえばポストは、たしかに「助けを求めていい」というメッセージを発信しているだろう。しかし本来、人を助けられるのはポストという場所ではないはずだ。人であり、社会のはずだ。ではどうすればいいのか。すぐに答えは出せないが、少なくともそうした役目をポストに担わせたまま、「美談」として報じることは避けたいと、私は思っている。

 最後に理恵さんの「その後」の話をしたい。

 ポストに預けた子どもは、住んでいる県の児相によって乳児院に預けられた。理恵さんは出生届を出すように言われたが、市役所では出産に立ち会った医師や助産師が書く出生証明書がないとして受理されなかった。このため法務局まで行って事情を説明した。乳児院では子どもとの面会は1週間に1回だけ、時間も1時間だけと決められた。

「子どもが近くにいるのに、会う時間も限られ、何もできないことがつらかったです」

 早く養親のもとに行ってほしい。両親がそろった家庭で愛されて育ってほしい。そう願ったが、面会も限られ、なかなか養子縁組の手続きが進まず、児相に対して不信感を募らせた。ある日、児相の職員が持っていた理恵さんに関するファイルに、「ネグレクト」と書かれているのを見て驚いた。ネグレクトとは養育放棄のことだ。

「私ってネグレクトなんですか」

 そう聞くと、職員は「何か分類をつけなきゃいけないので、つけているだけです」と答えた。役場や法務局の担当者とのやり取りは事務的かつ煩雑で、児相職員にも不信感を募らせた。結局、娘は生後6か月で養親に預けられ、いまは別の養親に育てられている。

「一貫して同じ人に育てられていないことが気掛かりです。手放したいまは祈ることしかできません。幸せになってほしいと祈っています。いまの養親さんはしっかりした方だと聞いて安心しています」

 娘は、先に養子となったきょうだいとともに暮らしている。養親は「元気に大きくなっています」「上の子のまねばかりしています」と話しているという。そんな話を伝え聞くと、「とてもうれしい」と理恵さんは言う。

「会いたいですか」と聞くと、うなずいた後、表情を曇らせた。

「会いたい気持ちはもちろんありますが、養親との関係を考えると、私の方から会いに行ってはいけないと分かっています。娘が成長して、私に会いたいと望んでくれるなら、会いたいと思います。もし、望んでくれるなら」

※女性セブン2020年7月16日号

関連記事

トピックス

単独公務が増えている愛子さま(2025年5月、東京・新宿区。撮影/JMPA)
【雅子さまの背中を追いかけて単独公務が増加中】愛子さまが万博訪問“詳細な日程の公開”は異例 集客につなげたい主催者側の思惑か
女性セブン
連日お泊まりが報じられた赤西仁と広瀬アリス
《広瀬アリスと交際発覚》赤西仁の隠さないデートに“今は彼に夢中” 交際後にカップルで匂わせ投稿か
NEWSポストセブン
大の里の調子がイマイチ上がってこない(時事通信フォト)
《史上最速綱取りに挑む大関・大の里》序盤の難敵は“同じミレニアム世代”の叩き上げ3世力士・王鵬「大の里へのライバル心は半端ではない」の声
週刊ポスト
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎ストーカー殺人事件》「テーブルに10万円置いていきます」白井秀征容疑者を育んだ“いびつな親子関係”と目撃された“異様な執着心”「バイト先の男性客にもヤキモチ」
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《田中圭との不倫疑惑》永野芽郁のCMが「JCB」公式サイトから姿を消した! スポンサーが懸念する“信頼性への影響”
NEWSポストセブン
騒然とする改札付近と逮捕された戸田佳孝容疑者(時事通信)
《凄惨な現場写真》「電車ドア前から階段まで血溜まりが…」「ホームには中華包丁」東大前切り付け事件の“緊迫の現場”を目撃者が証言
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《離婚するかも…と田中圭は憔悴した様子》永野芽郁との不倫疑惑に元タレント妻は“もう限界”で堪忍袋の緒が切れた
NEWSポストセブン
成田市のアパートからアマンダさんの痛いが発見された(本人インスタグラムより)
《“日本愛”投稿した翌日に…》ブラジル人女性(30)が成田空港近くのアパートで遺体で発見、近隣住民が目撃していた“度重なる警察沙汰”「よくパトカーが来ていた」
NEWSポストセブン
小室圭さんの“イクメン化”を後押しする職場環境とは…?
《眞子さんのゆったりすぎるコートにマタニティ説浮上》小室圭さんの“イクメン”化待ったなし 勤務先の育休制度は「アメリカでは破格の待遇」
NEWSポストセブン
食物繊維を生かし、健全な腸内環境を保つためには、“とある菌”の存在が必要不可欠であることが明らかになった──
アボカド、ゴボウ、キウイと「◯◯」 “腸活博士”に話を聞いた記者がどっさり買い込んだ理由は…?《食物繊維摂取基準が上がった深いワケ》
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! トランプ圧力で押し寄せる「危ない米国産食品」ほか
「週刊ポスト」本日発売! トランプ圧力で押し寄せる「危ない米国産食品」ほか
NEWSポストセブン