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「赤ちゃんポスト」の真実に迫る――母親はなぜ預けたのか

中央に見える扉の右側には、インターホンとともに母親へのメッセージが書かれている(時事通信フォト)

 赤ちゃんを遺棄や虐待から救う、命を守る。崇高な理念を掲げて設立された。それから13年、155人の子どもが預けられた。赤ちゃんポスト、それは新聞やテレビドラマで数多く取り上げられた名称だ。しかしあなたは赤ちゃんポストの“真実”をどこまで知っているだろうか。このたび地元・熊本で取材し続けたジャーナリストで『赤ちゃんポストの真実』著者の森本修代氏が、ある問いを投げかけた。なぜ母親は子どもを預けたのか。預けられた子は“その後”何を想うのか。改めて命を考える渾身のノンフィクション。

◆「幸せになってね」前日に産んだわが子の姿をその目に焼き付けて

 10年近く前のことだった。一人の女性が前日に産んだばかりの赤ちゃんを抱えて、熊本市内の病院を訪ねた。目指したのは病院の一角にある「赤ちゃんポスト」だ。わが子との別れを決意していた。その姿を目に焼きつけて祈った。

「幸せになってね」

 赤ちゃんポストは2007年5月、前年に発覚した乳児遺棄事件をきっかけに熊本市の慈恵病院に設置された。「遺棄や虐待から救う」ことを目的とする。正式名称は「こうのとりのゆりかご」。親が育てられない子どもを匿名で預かる。2020年3月までの約13年間で155人が預けられている。

 赤ちゃんポストに子どもが預けられた場合、戸籍法に基づき「棄児」(捨て子)と位置づけられ、児童相談所(児相)と警察に報告される。児相は親を捜す調査をするが、それでも身元が分からない場合、親の名前が空欄の一人戸籍が作られ、姓名は熊本市長が定める。ちなみに身元が判明しない子どもは健康保険に入ることはできず、医療費は熊本市が負担する。

 よくいえば慈恵病院の信念に基づいた孤軍奮闘によって、より現実的にいえば現行法では扱えず、グレーゾーンで運用されている。

 私は地元紙の記者をしている。ポストは、大手メディアによって大々的に取り上げられ、認知度も高い。だが、一度預けられた後は、匿名性という壁のもと「その後」を追うことは困難だ。母はなぜわが子を預けたか。その子はいま何を想うか。取材したかった。

 細い糸を伝うようにして、「預けた人」である女性に接触できたのは、2019年10月のことだった。

 時間通りに、理恵さん(仮名)はやって来た。幼稚園に通う2人の男の子を連れている。小柄な体に、白地に青のボーダーが入ったニットとジーンズ。化粧は薄く派手さは全くない。男の子の一人は任天堂のゲーム機、スイッチを手にしている。その子は「コンセントはどこ? もう1%しかない」と言い、コンセントを見つけて充電を始めた。

「充電していいですかって聞いた? ちゃんと聞いてからよ」

 この人が、本当に赤ちゃんポストに子どもを置いたのだろうか。私も2人の息子がいることを伝えると、理恵さんはさっと顔を上げた。

「男の子2人って、大変ですよね」

 理恵さんと私は男の子の子育て「あるある」をしばらく話した。そしておもむろに「この子たちにはお姉ちゃんがいて、ゆりかごに預けたんです」と話しだした。

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