豊島区の「繁華街警備隊」(左)の新型コロナウイルス感染防止の呼び掛けが行われる中、多くの人が行き交う池袋の繁華街(時事通信フォト)

豊島区の「繁華街警備隊」(左)の新型コロナウイルス感染防止の呼び掛けが行われる中、多くの人が行き交う池袋の繁華街(時事通信フォト)

 紙媒体に固執した私の仲間も多くは消えた。私も出版社退職後、2010年代はソーシャルゲームのシナリオや電子コミックの原作、編集で食いつないだ。小さな出版業界の話だが、その変遷は「コロナ後」の社会と仕事にも同じことが言えるだろう。コロナによって旧来の職業形態は大きく変わる。それに対応できなければアフターコロナを生き残ることはできない。

「助成金も貰いましたが、元々そんなに売り上げがあったわけじゃありませんから微々たるものでした」

 当たり前の話だが、あくまで前年比なので以前から稼げてなければ少ないのも仕方がない。それにしても暮沼さん、背に腹は変えられないとはいえコロナ騒動の「夜の街」で働くことに抵抗はないのか。

「あまり気にしてませんね、夜の街ってひとくくりなら、私も言われてみればそうですね、どうしてもお水の人しか想像できないし、私がそうだと言われるとピンときませんね」

◆批判する連中はお金をくれませんから

 クラスターのやり玉に上がっているホストクラブやキャバクラもひっくるめて「夜の街」と小池都知事は連呼している。しかし新宿や池袋を「夜の街」とくくるのは少々乱暴ではないか。例えば私の行きつけで言えば池袋の大手アニメショップは夜8時まで営業しているし、新宿の大手同人ショップに至っては夜中の11時までやっている。小池都知事の言葉だけを取るならオタク店員も「夜の街」の人々だ。そんな特別な例を出さないまでも、暮沼さん含め新宿や池袋には水商売以外にも多種多様な業種の人々がそれぞれの事情と都合で働いている。むしろ全体で見たら水商売は目立つだけで少数派だろう。とんだ風評被害だ。

「私も夜の街の人、だとしたら電車やばいですね、私だってコロナかもしれませんし、差別されるんですかね」

 冗談めかして笑う暮沼さん。そうなのだ。特定業種や地域をあげつらっても無用な分断と疲弊を生むだけなのだ。コロナウイルスはいまだに解明されていない未知の疫病である。国も自治体も迷走するのはわからなくもないが、そのはけ口を「夜の街」とひとくくりに押し付けるのはどうなのか。この取材後の東京都の感染者数は9日に224人、10日は243人と過去最多を更新し続けた。そのうち「夜の街」関連は3割を超えており依然として多いが、それ以外の感染場所や「感染経路不明」が上回っている。

「私、今年からこのバイト始めたんですけど、すぐコロナで店が休業になっちゃったんです。パチンコ店が休んだり叩かれたり、みんな忘れてるでしょうけど」

 あの自治体やネット民によるパチンコ店攻撃は何だったのか、いまとなっては不可解だが、大衆とは都合の悪いことを示し合わせることなく集団で忘れることができる団結本能の集合体である。それは歴史が証明している、今後も続く普遍的真理である。それがいまは「夜の街」なだけだ。

「でも食べてかなきゃしょうがないし、嫁も体が弱いのでかわいそうです。子どもがいないのは幸いですが、人それぞれの事情がありますからね、デザイナーとしての仕事が全然ないわけじゃないですから、夜の街とか言われてもこのバイト続けますよ」

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