自分への対応も同様だった。山内さんが本当に危険を感じているとき会社は静観モードで、外務省が一時帰国を強く推奨すると、ようやく帰国命令を出した。
「中国人の部下たちにも『一番大変な時期を中国で頑張って、せっかく落ち着いてきたのに、日本の方が危ないですよ。マスクあげましょうか』と言われます」
悩んだ末、山内さんは日本に帰らないことを決めた。帰国の決裁を待っている1週間に、日本ではさらに感染が広がり、「日本の方が感染リスクが高いし、今帰国したら、中国に当面戻れなくなるかもしれない」と感じたからだ。会社とはもめたが押し切った。
「2月に北京のオフィスに出社したときはマスクだけでなくゴーグル、使い捨て手袋をつけていました。帰宅したら即手洗い、シャワー、着ていたものの洗濯です。日本人は『中国怖い』と言いますが、日本の方が無防備すぎて恐ろしいですよ」
北京では3月に入って新たな感染者はほとんど出なくなっていたが、代わりに海外からのウイルスの持ち込みが増え、同月16日には、海外から北京入りする人は全て、自費での2週間隔離が義務付けられた。
「やっぱり日本に戻らなくてよかった」と言いながら、山内さんは母国のやり方を批判した。
「日本は民主主義だから中国のようなやり方は無理だろうと知り合いにもかなり言われました。それでも、イタリアだってアメリカだってやっている。短期終息のためにはインフラ以外を一旦全部閉じるしかない」