米津が目指すは「日本と欧米の中間のところ」

 こうした欧米のさまざまな音楽的要素を違和感なく活用できることは米津の強みでもある。2017年にリリースされた前作『BOOTLEG』でも、現行のR&Bやヒップホップなど海外の最先端のポップスのサウンドをJ-POPのフォーマットに落とし込んでいた。その際に受けたインタビューで彼は次のように述べている。

「日本の外で巻き起こっているポップシーンとか、見ていて面白いじゃないですか。なのに、自分の身の回りには、そういうところに目を向けている人があんまりいない。よく日本を表す言葉として言われる“ガラパゴス”には、それはそれなりの美しさがあると思うけれど、『もっと面白いことがあるのにな』っていう感じは、自分のなかにあるんです」(『Real Sound』2017年10月30日付インタビュー記事)

 一方、米津はBUMP OF CHICKENをはじめとした日本のロック・バンドから多大な影響を受けたことも公言している。またキャリア初期から和楽器のサウンドを取り入れるなど、あくまでも日本というアジアの島国で生まれ育ったことと向き合いながら海外の文脈を昇華しようとしてきたのである。先のインタビューの続きで彼は次のように語っている。

「でも、俺は日本で生まれ育って、日本人としてJ-POPが作りたいと思っているし、自分の身の回りの人間に向けて何かやっていきたい、とも思っていて。ずっと一貫しているのは、その引っ張り合いですね。海の向こうで巻き起こっていることの文脈を借りながら、日本人として生まれ育ってきた懐かしさとの引っ張り合いになりつつ、その中間のところにたどり着くにはどうしたらいいかって考えるようにしていて」(同前)

 今回のアルバムでも、欧米の音楽的要素がありつつも、「Flamingo」で民謡を彷彿させる節回しを披露したり、「パプリカ」のセルフカバーで三味線や笛を効果的に取り入れたりしている。まさしく日本と欧米の「中間のところ」が目指されているのである。そんな米津の魅力について、著書『CDは株券ではない』(ぴあ)でJ-POP批評を手がけたこともあるジャズ・ミュージシャンで文筆家の菊地成孔氏は次のように指摘する。

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