若手俳優を鍛える“演技道場”だった
東海テレビ制作の昼ドラは、52年間で214作が放送されました。歴史が長く、作品数が多いだけではなく、毎日放送される帯ドラマのため、出演俳優にとっては演じるシーンが多い上にスケジュールもタイト。撮影の順番もバラバラで、「何話のどのシーンを撮っているのか分からずに演じていた」「今日の日付も時間もよくわからなかった」と語る俳優も多いなど、さまざまな意味で鍛えられる“演技道場”という声も聞くほどの場でした。
さらに東海テレビ制作の昼ドラは夫婦や親子の愛憎劇が多いため、そのほとんどが難役。実際、以前インタビューしたある俳優は、「感情をむき出しにする演技は昼ドラで覚えた」と言っていました。芸能事務所としても顔を覚えてもらうチャンスであり、演技の幅を広げる機会としてとらえていたのです。
「東海テレビ制作の昼ドラ」と聞くと、ドロドロの人間模様をイメージするかもしれませんが、小中学生の在宅率が高い夏季と冬季は、『はるちゃん』『明日の光をつかめ』『花嫁のれん』のようなマイルドな作風も少なくありません。また、2009年以降は視聴率回復のために放送期間やジャンルの自由度を高めた挑戦的な作品が増え、若手俳優の起用も活発になっていました。
そんな最後の数年間で蒔かれた種が今、花を咲かせようとしているのではないでしょうか。だからこそ昼ドラのような民放の帯ドラマがない現状には、寂しさを感じざるを得ません。現在、東海テレビは土曜深夜に『オトナの土ドラ』を放送していますが、昼ドラには深夜ドラマでは学べないものがあるだけに、若手俳優の育成という意味であらためて喪失感を抱いてしまいます。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。