国内

元福岡県警・マル暴指揮官が明かす「工藤會との対決30年」

過激な活動で有名だった工藤會のいまとは(写真は2012年の本部事務所への家宅捜索。時事通信フォト)

 過去、数々の暴力事件を起こし、事務所倉庫からロケットランチャーが発見されるなど、突出した凶暴性で全国にその名を知られた『工藤會』(本部・福岡県北九州市)。全国唯一の「特定危険指定暴力団」であるこの組織が、警察の徹底的な取り締まりにより、弱体の一途を辿っている。

 2014年には事実上のトップ3、野村悟総裁、田上不美夫会長、菊地敬吾理事長が殺人や組織犯罪処罰法違反など4件の市民襲撃事件に関与したとして逮捕。現在、3人の公判が福岡地裁で開かれている。7月31日の公判では、野村被告が被告人質問に臨んだ。この日、紺のスーツにノーネクタイで現われた野村被告は、補聴器を付けて証言台へ。元漁協組合長の射殺事件(1998年)などについて検察から問われ、「一切関与していません」と無罪を主張。そのほかの事件についても、全て関与を否定した。

 最盛期の2008年には1200人の構成員等を抱えた工藤會も、いまや半数以下の500名ほど。かつて“最強の武闘派ヤクザ”と呼ばれた工藤會の今の姿を、その壊滅に半生を捧げた捜査指揮官はどう見ているのか──ジャーナリストの末並俊司氏が、伝説の元福岡県警マル暴トップに話を聞いた。

 * * *
「彼らと戦った日々を、いまでも昨日のように思い出します」

 8月初旬のある日の昼下がり、福岡県北九州市小倉の喫茶店でそう話し始めたのは、藪正孝氏(64)。1975年から2016年に退職するまで、福岡県警の刑事として暴力団対策部門に携わり、暴力団対策部副部長、北九州地区暴力団犯罪捜査課長などを歴任。まさに工藤會の壊滅に警察人生の全てを注いだ男である。

 県警を退職後、公益財団法人「福岡県暴力追放運動推進センター」の専務理事を務める藪氏は、この5月に工藤会と福岡県警の30年にわたる戦いを記録した『県警vs暴力団 刑事が見たヤクザの真実』(文春新書)を出版した。

「当たり前ですが、暴力団はどの組織も暴力的です。ただ、工藤會は他の団体に比べると次元が違った。カタギだろうと警察だろうと容赦なく狙う。こんなヤクザはいままでなかった」(藪氏。以下同)

 工藤會の前身となる工藤組は、戦後間もない1946年、博徒系の組織として生まれた。その後、九州進出を目論む山口組と衝突しながら、勢力を拡大していった。

 だが、1992年に暴力団対策法が施行され、北九州市民に暴力団反対の機運が高まる。

「脅しに屈さず、みかじめ料の支払いを拒否する人や、組員の立ち入りを拒む店なども現われ始めた。県警も工藤會への圧力を一層強めました。ただし、こうした情勢が組員の凶暴性に拍車をかけた。『窮鼠猫を噛む』ではないですが、あちこちで刃傷沙汰、発砲事件を繰り返しました。2003年に小倉のクラブに構成員が手榴弾を投げ込み、12人が重軽傷を負います。これ以前も県警は様々な方法で工藤會弱体化に力を注いできたのですが、この事件をきっかけに捜査の抜本的な見直しが必要だと、県警全体が認識するようになりました」

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン