やはり大切なのは「食べる」こと

 入れ歯は装着具合に慣れるのが大変で、毎日着脱して自分の歯と同じく磨かねばならないという。きっと母には無理だ。何度も試した補聴器も結局、使えなかったのだ。でも奥歯が抜けてしまうと食べられるものも限られるだろう。

 もう40年近く前、施設に入った祖母(母の実母)を見舞い、ペースト状の食事を口に運んでやりながら泣きそうな顔をしていた母を思い出した。あのときの祖母はいまの母と同じくらいの年のはずだが、認知症で会話もままならず、ほぼ寝たきりだった。

 しかし現在、新型コロナ流行下でなければ、母は「おいしいものを食べに行こう!」という勢いだ。まだ先がある。

「先生、入れ歯がうまくできなかったらどうなるんでしょう。もしかしてペースト?」

 思い詰めて尋ねると、女医さんは笑って言った。

「ヘルパーさんに手伝ってもらうこともできるはずよ」

 そんなことも頼めるんだ!母の自立にこだわり何かと家族主導で動いているから知らないことは知らないまま。もっとケアマネジャーさんたちに相談していればよかった。さっそく問い合わせてみると、歯磨きや入れ歯着脱の声掛けやチェック、入れ歯洗浄も一緒にやってくれるという。

 3年前は絶望に近い気持ちで入れ歯問題を先延ばしにしたが、希望の光が見えてきた。

「入れ歯がダメなら、そのときまた考えましょう。とにかく食べることが大切……ということを忘れないでね」

 手探りの老親介護は、まだまだ続く。

※女性セブン2020年9月24日・10月1日号

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