国内

炎天下にマスク姿で道路に立つ70代の2号警備員が抱える不安

日本で警備業に就く人の約半数が60歳以上(イメージ)

日本で警備業に就く人の約半数が60歳以上(イメージ)

 9月も下旬にさしかかり暑さも一段落と思いたいところだが、熱中症予防のために公表されている「暑さ指数」(WBGT:湿球黒球温度)をみると、まだしばらく油断がならない日々が続きそうだ。熱中症予防のために、危険な場合はマスクをはずしてと呼びかけられても、クレームをおそれてはずせない仕事もある。俳人で著作家の日野百草氏が、今回は、炎天下でマスクをつけたまま警備の仕事にいそしむ70代男性についてリポートする。

 * * *
「何時間も立ってると、このまま死ぬんだろうなと思います」

 真っ黒に日焼けした石倉竜次さん(70代・仮名)と出会ったのは都内の建設現場だった。まだ建方の途中、躯体も露わな建売住宅の並ぶ路地、石倉さんはマスク姿で立っていた。9月とはいえまだ残暑は厳しい。気温30度にも届くかという炎天下、前日の雨で湿度も尋常じゃない中、石倉さんは「通行止」の看板と共に立っていた。

「今日も意識が飛びました。でも仕方ない、食っていかなきゃいけません」

 大きなリュック姿で帰路につく石倉さん。駅まで歩くというのでその間に話を聞かせてもらうことにした。この手の現場はスクーターで来る警備員が多いが、石倉さんは駅から徒歩、聞けばこの仕事を始めて間もないという。石倉さんは70代だが新人の2号警備員だ。警備員には4種類の警備業法上の区分がある。1号は施設警備で3号が現金輸送などの運搬警備、4号がいわゆるボディーガード(身辺警備)、石倉さんの2号警備は交通誘導や雑踏整理が業務となる。

「歩行者誘導ですから、マスクは仕方ないです。でもつらいですね」

 灼熱の炎天下でも土砂降りの雨でも一日中立ちっぱなしの交通誘導、それに加えてコロナ禍にあってマスク着用はもはや義務ともいえる状況になってしまった。もちろん飛沫の拡散防止と互いに感染させない予防のためには仕方のないことだが、厚生労働省は今年6月にまとめた熱中症予防行動のリーフレットで「高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあるので、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクをはずすようにしましょう」と呼びかけている。しかし「マスク警察」よろしく過度にマスクを強要してくる住民もいる。通行人と揉めるくらいならと熱中症の危険があってもマスクをしているのが現実だ。

「ほんとは警備員ってマスクだめなんですよ、先輩から教えられたんですけどね」

 これは警備業法16条の話だが、警備員は本来、身につけるものすべてを都道府県の公安委員会に届けなければならない。私服警備員とて何でも着ていいわけではなく、厳密には複数のコーディネイト別に届けることになる。ただしマスクが服装にあたるかどうかはグレーなところで、やはり警備員が顔を隠すのは問題があるからとマスクは着用しない業者と、以前から花粉症やインフルエンザ防止でも認める業者とで対応はまちまち、現場や業務にもよる。もちろんコロナ禍の昨今、大半はマスク着用が逆に会社として義務づけられていたりもする。会社によってはプラスチック製の透明マスクを支給しているところもあるが、石倉さんの会社は小さな事業者なのでただの不織布マスクだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン