ところで、大麻について伊勢谷や近藤氏と同じような訴えをしている人物がいる。この例を出せば大麻擁護者たちから「恣意的だ」と言われるかもしれないが、神奈川県相模原市の障害者施設で入居者19人を殺害、26人に重軽傷を負わせたとして今年3月、死刑が確定した植松聖死刑囚である。事件を取材し、横浜拘置支所で植松と接見した全国紙記者がいう。
「危険ドラッグや精神薬をやると脳が壊れバカになる、大麻はその逆で地球の力がある、というような主張を、接見に来た記者全員に説いていました。植松は、危険ドラッグの使用経験もあり、罪であることも自覚していましたが、大麻については違いました。『大麻精神病』が事件を引き起こすきっかけになったという弁護団の主張方針を嫌っていて、大麻を悪く言うなと繰り返し主張していたのです」(全国紙記者)
植松死刑囚もまた、前述の近藤氏同様、大麻は自然からの贈り物でありいわゆる「薬物」とは別物だと捉えていたようだ。逮捕された伊勢谷を擁護する声には、こうした主張の他に、彼が逮捕されたからこそ、主張が正しかったのではないか、とする見方も広がっている。記者が続ける。
「伊勢谷のSNSなどには、大麻は悪くないのだと主張するユーザーの書き込みも見られました。そもそも『犯罪をしている』という自覚がなく、もっと言えば、権力者が大麻を『犯罪にしている』のだから、自分達は悪くないという開き直り。植松死刑囚も、自身の犯行を正当化しましたが全く同じ理屈です」(全国紙記者)
他にも複数の「大麻擁護論者」に話を聞いたが、伊勢谷を非難する人間はほとんどいなかった。日本では禁止されているので、そんなにやりたいのなら海外に行けば良い、という声は若干だが聞かれた。また、日本が大麻の所持や売買を違法化しているから犯罪組織の資金源になる、といった声もあったが、それは違う。一部の州などで嗜好用大麻の売買が違法ではなくなったアメリカでも、結局、反社会的組織がいまだに大麻の売買に関与し、問題となっている。海外では合法という言葉が擁護論者からはたびたび聞こえてくるが、前出・原田教授も指摘しているように現在、大麻が合法化されているのは世界でわずか3か国(ウルグアイ、アメリカの一部の州、カナダ)。しかも、その合法化は日本も含めたほとんどの国連加盟国が加わる国際条約「麻薬に関する単一条約」で禁じられているため、国連から厳しく非難された。ちなみに、オランダは合法なのではなく非犯罪化であり、大麻所持や販売について厳しく管理することで他の禁止薬物の乱用を押さえ込んでいる。擁護論者が訴えるように、大麻は世界で「合法」にはなっていない。