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2020.10.28 16:00  NEWSポストセブン

かつて「飛び降り巻き添え事件」の現場に居合わせた人の無念

東京・板橋区の高島平団地に取り付け工事が施された飛び降り自殺防止のフェンス。1981年(時事通信フォト)

東京・板橋区の高島平団地に取り付け工事が施された飛び降り自殺防止のフェンス。1981年(時事通信フォト)

「ほんと勘弁して欲しいですよね、ビルの飛び降りもそうだけど、電車だってそう、酷な話だけど、一人で死ねばいいんですよ」

 風間さんに悪気はない。むしろ風間さんの意見のほうが世間一般の「普通」かもしれない。あえてつけるなら「死ぬなら」一人で死ねばいい、だろうか。事故で落ちてしまった人でなければ、自ら飛び降りてしまう人に心の不安定な人が多いのは当然だろう。飛び降り側に立って憐憫の情を抱く人もいるだろうが少数派なのも当然で、飛び込まれた被害者には何の落ち度もない。それは理不尽な死と一言で片づけられないほどに理不尽だ。雷が落ちて死ぬような太古の自然界から存在するような理不尽でもない。他人を巻き込むような場所かつ飛び降り自殺をしなければ済むというだけの話。批判覚悟だが、やはり飛び降りる側が悪いということは被害者やその家族を思えば大前提だろう。

「飛び降り犯、って言葉を使ってもいいと思うんですよ。本当に被害者はかわいそうです。ただ歩いてただけなのに」

 重ね重ね気持ちはわかるが無理だろう。池袋で飛び込んだ女性は容疑者死亡のまま、重過失致死の疑いで書類送検された。人通りの多い場所に飛び降りれば人を巻き添えにする危険性は認識できるとして過失致死、重過失致死の嫌疑はかけられるだろうが、殺意は不明なので殺人にはできない。そもそも飛び降りた側のほとんどは死んでいるので不起訴にするしかない。あとは民事で被害者、亡くなった場合は被害者家族が訴えるしかないだろう。

「それでも家族はやりきれないでしょう。やっぱり人を巻き込むのがわかりきってるようなとこに飛び込む人は擁護できませんね」

 風間さんはヒートアップしてしまい、このあとは本稿でとても書けない内容のオンパレードになってしまったので割愛する。「自殺するなら一人で迷惑かけないとこで」という一貫した主張はよくわかった。自殺念慮者に対する精神的なケア、不安定な人々に寄り添う社会を実現すべきというのは当然だし、コロナの影響もあり8月自殺者が全国で前年比15%増、9月の自殺者が前年比8%増(警察庁統計)と年末に向けてさらに増える可能性もあるが、そういった人々の誰もが都会のビルから通行人めがけて飛び降りているわけでもない。

 福祉の領域と飛び込みによる巻き込み事件そのものは区別しなければ、精神的な病や悩みで苦しむ人たちの迷惑になる。あくまで「そんなところに飛び込む人が悪い」が大前提だろうし、その行為が非難されるのは無理もない。何の罪もない人がある日突然、空から降ってきた自殺志願者に殺されてしまうのだから。その何の罪もない人というのが私たち「通行人」だとしたら、自分が、家族が、友人がそうなったらと考えると、なかなか巻き込むような自殺者の側には立てないし、そんな逆張りは世間の理解も得られにくいだろう。

 その後も風間さんと話したが具体的な防止策というのは浮かばなかった。精神福祉の専門家すら苦心しているのが自殺問題だ。一人で死ねは言い過ぎたかもしれないと反省していたが、「他人を巻き込む自殺者は悪である」「人を巻き込む迷惑はやめるべき」という「あるべき論」だけは譲れないという。被害者の無念を思えば、私も同感である。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本福祉大学卒業。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。近刊『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)寄草。近著『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。

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