当然ながら代表から落選。このとき初めて挫折を味わいました。
かなりの決意で「もう水泳はやめよう」と思い、コーチに伝えると、「もうちょっと続けてみよう」と言われてしまいました。そのときコーチは「もう一度結果を出させて、自信を持ったまま、次のステージに送り出したい」という気持ちがあったようです。
その後、コーチはハードな練習ではなく、「金藤ならできる」と優しい言葉で励まし続けてくれましたが、苦しくて仕方がなかった私は「頑張れ」と言われるだけでつらくて、「そんなの無理です!」と、反発することもありました。
そんな中で言われたコーチのひと言が、いまも忘れられません。それは、「誰かほかの人から『お前はやめた方がいい』と言われたら、お前はやめるべきだけど、周りの人が『理絵ちゃん頑張れ、金藤理絵ならできる』と思ってくれているうちは、やった方がいい」という言葉です。
いま思うとありがたい言葉なのですが、どん底だった私は、「どうせなら『金藤理絵はやめた方がいい』と言われた方がよっぽど楽なのに……」と、さらに塞ぎ込みました。
両親にも「競技をやめて、いまお世話になっているスポンサーのところで働こうと思う」と言いました。
すると父は、「夢を与える企業で、お前のような中途半端なやつが働くのは許さない」とバッサリ。父は昔から、決めたことを途中でやめたりあきらめるのを許さない人だったので、このときも厳しい反応でした。
スランプのどん底にいるのに、「そんなきついことを……」と落ち込みましたが、あれも私を踏みとどまらせるための愛の言葉だったのだといまは思います。
【プロフィール】
金藤理絵(かねとうりえ)/1988年9月8日生まれ、広島県出身。2011年3月、東海大学体育学研究科体育学専攻修士課程修了。競技種目は女子200m平泳ぎ。広島県立三次高校3年生のときに、2006年インターハイにて優勝。東海大学体育学部体育学科に進学後、2008年日本選手権で2位となり、北京五輪代表入り。2009年世界選手権5位。2016年リオ五輪にて金メダル獲得。2018年3月引退。現在は全国各地で水泳指導や講演を行う。2017年に結婚、現在1児の母。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2020年11月5・12日号