ところが、新書版ではその箇所を収録した章が丸ごと“削除”された。メディア法が専門の田島泰彦・元上智大学新聞学科教授はこう話す。
「政府が記録を克明に残すべきだという主張は国家の信頼を担保するための正論です。文藝春秋は『編集部の判断で収録しない構成案を作成し、菅氏の了解を得た』と説明しているのに、菅首相は経緯を語らない。原著は自ら制作費をすべて負担してまで出版したのだから、その記述をどうするかの決定は菅首相の判断に委ねられているのではないか」
著書も、発言も、政策も、不都合な過去は記録から消えていく。菅首相の目指す「政治」が、はからずも浮かび上がる。
※週刊ポスト2020年11月20日号