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『とんかつDJアゲ太郎』を観ると、なぜとんかつが食べたくなるのか

『とんかつDJアゲ太郎』パンフレットはレコードEP盤サイズ

『とんかつDJアゲ太郎』パンフレットはレコードEP盤サイズ

 マンガ原作でアニメ化もされている作品の実写映画化は、なかなか素直に受け止められなくなっているのが実情だ。そこにプラスして、出演者の不祥事によって厳しい門出を強いられた10月30日に公開の『とんかつDJアゲ太郎』だが、実際に映画館で体験すると、二宮健監督がエッセイでつづっていたように、幸せな気持ちでとんかつを食べたくなるファミリー映画になっていた。漫画原作の実写映画をウォッチするライターの北原利亜氏が、映画『とんかつDJアゲ太郎』がもたらす多幸感について考えた。

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 うっすらと肌を疲労の膜が覆っていて、何を考えるのもおっくうで、気分転換に「笑いたい」となったときは、オススメの笑える動画を見てもさっぱり笑えない。そして、気づけば幸せな気分になれる動画を探していたりする。2020年は気づけば、何も考えずに笑いたいと思う時間が増えている。そんな気分に寄り添ってくれたのが、映画『とんかつDJアゲ太郎』だった。

 人はいろいろな瞬間に幸せを感じるが、心地よい音を耳にしたとき、なかでも揚げ物の音はかなり上位に入る「幸せの音」だろう。YouTubeで心地よさを感じると人気の「#ASMR」タグを検索すると、揚げ物を揚げる音や、それを食べるサクサクといった音の動画が多数あり、人気も高い。その音を、音楽にのせて共有できたら幸せはどこまで広がるのか。映画『とんかつDJアゲ太郎』は、まるで出オチのような「とんかつ」と「DJ」の融合を見事に成し遂げ、その体験を主人公である渋谷の老舗とんかつ屋「しぶかつ」三代目の勝又揚太郎、通称アゲ太郎(北村匠海)のクラブ文化との出会いと成長とともに共有できる映画となっている。

 とくに何かやりたいことがあるわけでもなく、なんとなく家業のとんかつ屋で働いていたアゲ太郎は、閉店間際に急に頼まれた弁当の配達に訪れたクラブで、スタッフに「見ていっていいよ」と誘われてフロアに足を踏み入れたことでクラブカルチャーに衝撃をうける。このとき、クラブに初めて足を踏み入れる瞬間の音と、それを足もとからアゲ太郎が感じ取る描写がとても印象的だ。同じ町内で生活しているのに知らなかった新しい世界を体験し、圧倒され同時に魅了されているのが伝わってくる。そして、この体験をきっかけにDJを目指すと決意し、物語はすすんでいく。そこに憧れの苑子ちゃん(山本舞香)がいたから近づきたいという下心もあるのだが、求めているのは犬が飼い主にかまってもらうような近さなので、いやらしさが無い。

 とはいえ、イケメン俳優が演じているのだから奥手な感じに説得力がないだろうと思う人にこそ、確かめてみて欲しい。とんかつを食べ続けてぽっちゃり気味な北村匠海が演じるアゲ太郎は、見事にボンクラなとんかつ屋の三代目だ。旅館(加藤諒)、電飾業(浅香航大)、薬局(栗原類)、書店(前原滉)の三代目である幼なじみたちと、使わなくなった旅館の宴会場を秘密基地のようにして過ごす様子は微笑ましいけれども、子供っぽい内輪のノリが強く、5人そろって跡取りとして心配されているだろうことをうかがわせる。三代目たちが楽しそうに人生ゲームや独自解釈のDJ修行にいそしむほど、彼らがどちらかというとポンコツな(でも憎めない)存在として微笑ましく見えてきて、5人がそろうだけで笑顔になってしまう。

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