芸能

『とんかつDJアゲ太郎』を観ると、なぜとんかつが食べたくなるのか

『とんかつDJアゲ太郎』パンフレットはレコードEP盤サイズ

『とんかつDJアゲ太郎』パンフレットはレコードEP盤サイズ

 マンガ原作でアニメ化もされている作品の実写映画化は、なかなか素直に受け止められなくなっているのが実情だ。そこにプラスして、出演者の不祥事によって厳しい門出を強いられた10月30日に公開の『とんかつDJアゲ太郎』だが、実際に映画館で体験すると、二宮健監督がエッセイでつづっていたように、幸せな気持ちでとんかつを食べたくなるファミリー映画になっていた。漫画原作の実写映画をウォッチするライターの北原利亜氏が、映画『とんかつDJアゲ太郎』がもたらす多幸感について考えた。

 * * *
 うっすらと肌を疲労の膜が覆っていて、何を考えるのもおっくうで、気分転換に「笑いたい」となったときは、オススメの笑える動画を見てもさっぱり笑えない。そして、気づけば幸せな気分になれる動画を探していたりする。2020年は気づけば、何も考えずに笑いたいと思う時間が増えている。そんな気分に寄り添ってくれたのが、映画『とんかつDJアゲ太郎』だった。

 人はいろいろな瞬間に幸せを感じるが、心地よい音を耳にしたとき、なかでも揚げ物の音はかなり上位に入る「幸せの音」だろう。YouTubeで心地よさを感じると人気の「#ASMR」タグを検索すると、揚げ物を揚げる音や、それを食べるサクサクといった音の動画が多数あり、人気も高い。その音を、音楽にのせて共有できたら幸せはどこまで広がるのか。映画『とんかつDJアゲ太郎』は、まるで出オチのような「とんかつ」と「DJ」の融合を見事に成し遂げ、その体験を主人公である渋谷の老舗とんかつ屋「しぶかつ」三代目の勝又揚太郎、通称アゲ太郎(北村匠海)のクラブ文化との出会いと成長とともに共有できる映画となっている。

 とくに何かやりたいことがあるわけでもなく、なんとなく家業のとんかつ屋で働いていたアゲ太郎は、閉店間際に急に頼まれた弁当の配達に訪れたクラブで、スタッフに「見ていっていいよ」と誘われてフロアに足を踏み入れたことでクラブカルチャーに衝撃をうける。このとき、クラブに初めて足を踏み入れる瞬間の音と、それを足もとからアゲ太郎が感じ取る描写がとても印象的だ。同じ町内で生活しているのに知らなかった新しい世界を体験し、圧倒され同時に魅了されているのが伝わってくる。そして、この体験をきっかけにDJを目指すと決意し、物語はすすんでいく。そこに憧れの苑子ちゃん(山本舞香)がいたから近づきたいという下心もあるのだが、求めているのは犬が飼い主にかまってもらうような近さなので、いやらしさが無い。

 とはいえ、イケメン俳優が演じているのだから奥手な感じに説得力がないだろうと思う人にこそ、確かめてみて欲しい。とんかつを食べ続けてぽっちゃり気味な北村匠海が演じるアゲ太郎は、見事にボンクラなとんかつ屋の三代目だ。旅館(加藤諒)、電飾業(浅香航大)、薬局(栗原類)、書店(前原滉)の三代目である幼なじみたちと、使わなくなった旅館の宴会場を秘密基地のようにして過ごす様子は微笑ましいけれども、子供っぽい内輪のノリが強く、5人そろって跡取りとして心配されているだろうことをうかがわせる。三代目たちが楽しそうに人生ゲームや独自解釈のDJ修行にいそしむほど、彼らがどちらかというとポンコツな(でも憎めない)存在として微笑ましく見えてきて、5人がそろうだけで笑顔になってしまう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
注目される次のキャリア(写真/共同通信社)
田久保真紀・伊東市長、次なるキャリアはまさかの「国政進出」か…メガソーラー反対の“広告塔”になる可能性
週刊ポスト
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
この笑顔はいつまで続くのか(左から吉村洋文氏、高市早苗・首相、藤田文武氏)
自民・維新連立の時限爆弾となる「橋下徹氏の鶴の一声」 高市首相とは過去に確執、維新党内では「橋下氏の影響下から独立すべき」との意見も
週刊ポスト
元・明石市長の泉房穂氏
財務官僚が描くシナリオで「政治家が夢を語れなくなっている」前・明石市長の泉房穂氏(62)が国政復帰して感じた“強烈な危機感”
NEWSポストセブン
新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左/バトル・ニュース提供、右/時事通信フォト)
《激しい損傷》「50メートルくらい遺体を引きずって……」岩手県北上市・温泉旅館の従業員がクマ被害で死亡、猟友会が語る“緊迫の現場”
NEWSポストセブン
WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン