ご縁がないのか。いや……。勝ったレースで馬券を買っていない自分が悪いに決まっているものの、「おや?」と思い当たるレースもあった。夏の重賞だ。こういうとき、過去のレースをすぐに観られるのがありがたい。
そのジョッキーは単勝オッズ1.9倍の1番人気馬に騎乗した。結果は3着。あきらかに仕掛けが早すぎた。なぜ覚えているかというと、8番人気馬(単勝オッズ30.4倍)の逃げ馬を◎にしてワイド馬券を買っていたからだ。
逃げ馬は順調にハナを切る。1番人気馬も好スタートで2番手追走。そして4角直前であっさりと前に出た。このとき、私はテレビ画面に「もうちょっと可愛がってよ!」と叫んだのである。
1番人気馬、直線半ばまで2番手につけ、スッとかわせば勝っていただろう。あせらずに可愛がってくれれば、逃げ馬は3着に粘っていた(はず)。ハズレの呪詛は、1番人気馬の鞍上へ。八つ当たりである。0%はその意趣返しなのかもしれぬ。
【プロフィール】
須藤靖貴(すどう・やすたか)/1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年11月20日号