スポーツ

ロンドン五輪金の小原日登美 吉田沙保里という壁との戦い

ロンドン五輪金の小原日登美

ロンドン五輪レスリング金メダリストの小原日登美

 世界選手権8度の金メダルに輝きながらも、なかなか五輪出場が果たせなかった小原(旧姓・坂本)日登美(39才)。大きな挫折やライバルたちの壁に阻まれ、何度かマットを降りた彼女が、再び五輪出場を目指し、2012年ロンドン五輪金メダルに輝くまでの奇跡の物語を追った。

「私がレスリングを始めたのは小学3年生のとき。3才下の弟が通っていた『八戸kidsレスリング教室』が楽しそうで始めました。

 ここの方針は勝ち負けよりも、レスリングを通して礼儀や人として大切なことを学んでほしいというもので、なかでも“あいうえおの5つの約束”を、毎回、練習の終わりにみんなで大きな声で言っていたのが忘れられない思い出です」(小原・以下同)

 その“あいうえおの5つの約束”とは、こんなものだ。

あ…あいさつは聞こえるようにハッキリと。
い…いじめとけんかはしません。
う…嘘は絶対につきません。
え…笑顔で頑張ります。
お…お父さんとお母さんのいうことは聞きます。

「これは人間形成の上で大事な教えなので、いまでも大切にしています」

 その後、4才下の妹・坂本真喜子選手(35才)も同教室に通い始める。中学卒業後は、八戸工業大学第一高校に進学。だがレスリング部がなかったため、学校に相談してレスリング愛好会を発足させ、練習に励む。

「女子は私だけだったので、男子と練習をしていましたが、どうしても体力的にはかないません。それでも必死で追いつこうと、早起きして、5kmの走り込みをしたり、近くの小学校の校庭の鉄棒で懸垂したり。でも、男子と練習をしていたおかげで、強くなるためにはどうすべきか、自分で考えられるようになりました」

 練習場所がなくても、練習相手がいなくても、あきらめず、自暴自棄にならずに工夫して進む強さが、道を開いたのだ。

 ひとりで地道に練習に励んでいた彼女に、ターニングポイントが訪れる。高校2年生のときに出場した全国高校生選手権の会場で、レスリングの強豪校として知られる中京女子大学(現・至学館大学)の監督の栄和人さん(当時)から声をかけられたのだ。

「栄監督から『うちの大学に来ないか』と言われたのですが、監督の情熱がすごくて、話を聞いているうちに『この人についていけば、世界チャンピオンになれるかもしれない』と思いました。進路も決まり、さらに練習に打ち込めるようになったからか、翌年の全国高校生選手権50kg級で優勝することができてうれしかったですね」

 高校卒業後は八戸を出て、栄監督のもとへ。1年目は栄監督が借りている寮で、同級生2人と先輩、後輩との共同生活をすることになった。

「栄監督の方針は勝つためには人生のすべてをレスリングに捧げるというもので、練習もできるまでとことん行うため、夕方5時から夜10時までかかったこともありました。休日に友達と遊びに出かけているときにも電話で呼び出され、戻って練習をしたことが何度もあります」

 それに監督は、寮で顔を合わせるとすぐにレスリングの話になるので、会わないようにしたりして(笑い)。朝から晩まで練習三昧のきつい日々でしたが、そのおかげで体力もつき、『絶対に勝つ!』という強い気持ちも持てるようになりました」

関連キーワード

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン