ロンドン五輪の決勝では7才下の北京五輪銅メダリスト、マリア・スタドニク(アゼルバイジャン)を相手に果敢に攻め、この日、日本選手団に3つの金メダルをもたらした(時事通信フォト)

ロンドン五輪の決勝では7才下の北京五輪銅メダリスト、マリア・スタドニク(アゼルバイジャン)を相手に果敢に攻め、この日、日本選手団に3つの金メダルをもたらした(時事通信フォト)

 こうして着実に実力をつけた彼女は、2000年、念願の世界選手権51kg級で優勝する。この年、女子レスリングが五輪の正式種目に採用され、いよいよ、世界に!と思ったのも束の間、彼女の前に新たな壁が立ちはだかる。

「五輪の女子レスリングの階級を見て愕然としました。私が出場していた51㎏級がなかったのです。何度見ても48kg、55kg、63kg、72kgの4階級のみ。私が五輪に出るには、階級を上げるか下げるしかありません。

 でも48kg級には一緒に世界を目指していた妹がいます。だったら、55kg級に階級を上げればいいかというと、ここには当時、圧倒的な強さを誇っていた山本聖子選手(40才)と吉田沙保里選手(38才)がいました。

 彼女たちを倒さない限り、五輪代表にはなれない。悩んだ挙句、姉妹で戦い、両親を悲しませるわけにはいきませんから、階級を上げることを決意し、勝つために食事量や体重を増やしました。でも、その壁は高すぎました……」

 2002年、五輪選考でもあった全日本選手権で、吉田選手に開始24秒で敗退。そのショックから、うつのような状態になってしまう。

「この先、何を目標にして生きていけばいいかわからなくなりました。実家に戻って引きこもり、お菓子ばかり食べているような生活になり、気がつけば体重が74kgまで増えました。見ている家族もつらかったと思いますが、父は気分を晴らそうと、休みごとに外に連れ出してくれました。それに、“姉の分も”と五輪を目指し続ける妹の姿にも励まされ、気持ちが徐々に前向きになっていきました」

 家族の温かい励ましに、徐々にやる気を取り戻した彼女は、再びトレーニングを開始。体重を元に戻す。だが、復帰するまでに2年の月日が過ぎていった。

「当時はとてもつらい日々でしたが、レスリングができること自体が幸せなことだと気づけました。人って負けることよりも、目標を見失うことの方がつらいのかもしれません。それに、本当に強くなるために、必要な経験だったと思います」

【プロフィール】
小原(旧姓・坂本)日登美(おばら・ひとみ)/1981年1月4日生まれ、青森県出身。2005年中京女子大学(現・至学館大学)卒業後、自衛隊に入隊。2000~2011年の間の世界レスリング選手権で8個の金メダルを獲得。2008年に現役を引退するも、2009年に復帰。2010年に1才下の後輩・小原康司さん(38才)と結婚。2012年にロンドン五輪のレスリング女子フリースタイル48kg級で金メダルを獲得。現在は自衛隊体育学校で後進の指導に当たる。6才男児と4才女児の母。

取材・文/廉屋友美乃

※女性セブン2020年12月17日号

勝利を手に(写真/GettyImages)

ロンドン五輪で金メダルを獲得(写真/GettyImages)

 

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